ニールス暦、9月26日。
ゴルドニア暦、Vargius26。
アツィルト暦、長月弐拾六日。
呼び方は違えど、これらが示す日は同じである。

9月26日。

今日は、その9月26日だ。
この日に何があるのかと言えば・・・・・・



「プレゼントって、こういうのでいいんですかね?」
「いいんじゃなーい?よっぽどスゴイのでない限り」
「『スゴイの』ってお前なぁ・・・」
「ケーキの飾りつけ、こんな感じでいいかな」
「お、うまそうだな。ロウソクは何本・・・・って、無理か」
「ライ、それ何なの?」
「見りゃわかるだろ。魔除けの御札と十字架と聖水とお守りだ
「・・・悪霊払いでもするつもりか?」
「あいつは悪霊なんぞよりタチが悪い。」
「・・・・・・」
こんな彼らの会話からも分かるとおり(無理です)、今日はとある男(年齢不詳)の、何百回目か分からない誕生日である。
稀代の天才と呼ばれたかつての宮廷魔導師、リュオン。
おそらく本人も年齢は把握できていないだろうが、年に一回訪れる誕生日は分かっているので、とりあえず祝う。
「9月26日って、ある意味リュオンにぴったりよねー」
「何でだ?」
「誕生石は真珠、誕生花はおおばこ。真珠の宝石言葉は『健康、長寿』で、おおばこの花言葉は『足跡を残す』。」
「・・・確かに、健康で長寿で足跡残しまくりの人生だよな・・・」
「そうだね・・・」
タイミングよく(?)生まれてきた寿老人に乾杯。
そんな他愛もない話をしているうちに、お誕生会(寒)の準備は整った。
「チキン良し。スープ良し。サラダ良し。酒もケーキもテーブルセッティングも良し。あとは被疑者の帰宅を待つばかりだ
(被疑者って、ライ・・・)
この男は何故、こうも普通の言い方ができないのだろうか。
しかしどうせ言っても聞かないので、ヘンゼルはもう何も言わないことにした。
「照明、ランプ消してロウソクにしねぇ?ケーキに立てらんねぇみてぇだしよ」
問題発言常習犯のライに、カインがさらなる問題発言ともとれる提案。
すかさずライが返す。
「お前はそんな黒魔術じみたテーブルで食事を摂取したいのか?
ごもっとも。
「・・・いや。それは是非とも遠慮してぇが・・・ロウソク買ってきちまったんだよなー」
「だったらプレゼントにすりゃいいじゃねぇか。きっと大喜びで受け取ってくれる」
機嫌が悪いのか何なのか、先ほどからやたらとライの言葉に棘がある。
聞いている方が怖くなるほどに鋭い棘が、隙間なく生えているような感じだ。
理由を聞いてみたいところだが、そんな事をしたら被爆しそうなのでやめておく。
と、そこに玄関のドアを開ける音が聞こえてきた。
「帰ってきたわね。さぁ皆、自分の位置について!」
何だか妙に張り切っているマイシェルの言葉に従い、キッチン入り口の両側にそれぞれ並ぶ。
とたとたと廊下を歩いてくる足音が近づいてくる。
3。
2。
1。
「ただいまー」
リュオンがキッチンに足を踏み入れると同時に鳴らされるクラッカー。

「HAPPY BIRTHDAY、リュオン!!」

「・・・何?」
呆然としているリュオンに、代表としてヘンゼルがケーキを渡す。
「誕生日おめでとう」
それを見てようやく状況が飲み込めてきたのか、ぽつりと一言漏らした。
「・・・僕の歳、4ケタになってからどれくらいだったっけ・・・
途端、それを聞いた面々は硬直した。
(4ケタ!?4ケタって、少なくとも1000は越えてるって事だよね!?)
(やっぱり噂は本当だったのか・・・!)
(どうりで、妙に歴史に詳しいと思ったわ。すでに生き字引と化してるのね)
(思ったとおりですね。自分でも何歳か覚えてないなんて)
(千歳って、最低でも10世紀は生きてるのか・・・)
(本当に、9月26日がふさわしいわ)
(きっと歳を取るごとに腹黒さが増してんだろうなコイツ)
どれが誰の心境かは、あえて言わない。
「ま、まぁ、とりあえずは席に着こうぜ」
最初に正気に戻ったカインが促す。
正気に戻った者からそれに従う事で、リュオンの台詞は闇へと葬られた。
一同が着席したところで、司会(?)であるマイシェルが乾杯の音頭を取る。
「じゃ、乾杯」
「乾杯」
カチャンカチャン・・・
「・・・・・・」
「・・・・・・」
皆、黙々と食事を口に運ぶ。
パーティにしては、やけに静かである。
これではまるで、葬式だ。
普段やっている酒盛りの方がよっぽどパーティらしいと思えてくる。
原因は、やはりというか当然ライにあった。
ヘンゼルが横目でそぅっと窺い見ると、そこにはもはや生きた凶器と化したライがいた。
(何かいる!何かいる!雰囲気だけで人を殺せそうな何かが!
猛獣が怒りを爆発させまいと必死に耐えようとすると、こういう感じになるのだろうか。
ライの顔は普段から怖いが、今は思わず逃げたくなるほど凄みがある。
それこそ、チンピラどころか軍隊すら逃げ出しそうなほどに。
(どうしようどうしようどうしよう)
その重苦しいまでの沈黙を破った勇者は、意外なことにフローラだった。
「導師」
「何?」
「ハッピーバースデー」
そう言ってフローラがぽん、と投げ渡したのは、淡いグリーンの包み紙にクリーム色のリボンで綺麗にラッピングされた箱。
「プレゼントです」
「あ・・・ありがと」
フローラの行動をきっかけにして、それまでの葬式の如き雰囲気を変えようと、他のメンバー達もプレゼントを取り出し始めた。
「はい。いかにもあんたが好きそうなの選んできたわ
マイシェルからのプレゼント、御札がべたべたと貼られた、いわくありげな黒い壷。
「何か封じてあるの?」
「さぁ。幽霊あたりが妥当なとこよね」
普通に会話しないでほしい。
「俺からはコレだ」
カインからのプレゼント、数珠。
「アツィルト風にしてみた。宗派が分かんなかったんで、適当に買ってきたが」
どういう基準で買ったのだろう。
「・・・一応もらっとくよ」
それでも受け取るリュオン。今日は何だか素直である。
「ハッピーバースデー、リュオン
グレーテルからのプレゼント、「実践黒魔術〜ライバルを蹴落とす方法から呪殺法まで〜」というタイトルの本。
「もしかして、もう持ってた?
持っていたら持っていたでヤバイ。あらゆる意味で。
「・・・・・・ん」
ギルバートからのプレゼント、ヴィンテージのワイン。
唯一マトモな品であろう。
ヘンゼルからのプレゼントはケーキであり、すでに渡されている。
そうすると、ラストは怒れる猛獣の如きオーラを撒き散らしているライということになる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
『プレゼント渡さないの?』なんて台詞、恐ろしくて誰も口に出せない。
と、突然ライが立ち上がる。
ごそごそと戸棚から黒い包み紙に赤いリボンでラッピングされた箱を取り出し、リュオンに向かって全力で投げた。
しかし取り損ねるリュオンではない(?)。見事にそれをキャッチした。
中身はきっと、例の悪魔祓いセットだ。
ライは無表情にそれを見つめる。
「それがプレゼント1号だ」
「・・・1号?」
1号。ということは、2号もあるのだろうか。V3もあるのだろうか。
小首をかしげるリュオンには目もくれず、今度はおもむろに冷蔵庫を開けるライ。
(?????)
冷蔵庫の中。
そこには、ヘンゼルの記憶が正しければ『アレ』が入っていたはず―――――・・・
と思った瞬間、ライがリュオンめがけて放ったパイ皿が炸裂した。
ベシャァッ!
さすがにリュオンも、これは予想していなかったのだろう。もろに顔面にヒットした。
もっさり泡立てられた生クリームにまみれ、何ともバカっぽい様相をさらすリュオン。
あまりの事に、本日3度目の沈黙が一同を包む。
「プレゼント2号。だが、これで終わりじゃねぇ」
ライは冷蔵庫の扉を全開にしてみせた。
そこには、冷蔵庫の中を占領している無数のパイ皿があった。
「お前は、9月26日が来るたびに毎回毎回手の込んだ嫌がらせをしてくれた。今日はその返礼をしようと思ってな」
嫌な予感がする。
「それともパイ皿でなくナイフの方が」
ドゴォッ!
最悪の展開になる前に動いた勇者は、またしてもフローラだった。
みぞおちに拳を叩き込み、ライの動きを止めたのだ。
「うぉっ・・・」
「ライ。あなたの教育も任されていた者として、私は恥ずかしいです」
痛みのあまり膝をつくライを見下ろしながら、フローラは悲しげに言った。
「あなた、一体いつから恩師に手を上げられるようになったんですか?短気は損気だと、あれほど教えたじゃないですか」
それは正論なのだが、ついさっきフローラ自身も上司(ライ)のみぞおちに拳を叩き込んだ事を忘れてはいまいか。
苦しみに耐え、ライは呻くように呟く。
「・・・俺は物心ついてからずっと耐えていたんだが」
「問答無用。」
「う、おい、ちょっと待て」
「はいはい分かりましたよ待ちません。あなたには少しお仕置きをした方がいいようですね。ほら、来なさい。 文句はベッドの上で聞いてあげますから」
「げ」
「げ、じゃありません。ほらほら行きますよ」
「・・・いっ、嫌だ―――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
悲鳴を上げるライをずるずると引きずって二階へと向かうフローラに対して、『どちらかと言えばリュオンはライの部下ではないか』とか 『短気よりも子供(ヘンゼルとグレーテル)を誘拐同様の方法で連れてきてしまうほうが問題なのではないか』とか『分かったと言いつつ 他人の話を聞いていないじゃないか』とか『お仕置きって何をする気だ』とか『二人はいつからそんな関係になってしまったのか』 とか聞きたいことは山ほどあったが、嵐のように去ってしまった彼女の後を追ってまで聞きに行く勇気は、その場の誰にもなかった。
「・・・顔、洗ってくる」
いい加減に生クリームの匂いと感触が嫌になってきたのか、リュオンは立ち上がって外にある井戸へと向かった。
勝手口を開けて外に出ると、そこはすでに夜の闇に包まれている。
「明日は、晴れるかな」
呟き、リュオンは水を汲み上げ、一気に頭からかぶった。
「ぎゃ―――――――――――――――――――――――――――っ!!!」
ばしゃばしゃとリュオンが水を浴びる音が続く中、突如響くライの絶叫。
「痛ぇ!痛ぇって!やめろ、そこは・・・・うわぁぁぁあ!!」
「マジで何やってんだあいつら・・・・・・!?」
二階から聞こえてくる悲鳴に恐れを抱くカイン。
「っていうか、ライもフローラには逆らえないのね」
妙なところで感心(?)するマイシェル。
「当然だろ。フローラはゴルドニア軍の小隊より強かったんだからな
「はぁ!?軍隊より強い!?」
さらりととんでもない事実を言い放つギルバートに、マイシェルが驚きの声を上げた。
「あぁ。王侯御典医ってのは、王族のボディガードも兼ねてる。フローラが王侯御典医に就任したのは9歳の時。 で、フローラは『こんなガキに王子のボディガードが務まるのか』みてぇなこと言ってからかった兵士に飛び蹴り食らわした事があるんだ
「・・・マジかよ」
「当然。その飛び蹴り食らった兵士が俺だ
「えぇ!?」
今の二人からは想像もつかない過去に、ヘンゼルは唖然とした。
「若気の至りってやつだ。その時には俺も将軍まではいってなかったが、指揮官は任されてたからな。俺の部下たちがフローラに次々と 飛び掛っては返り討ちにあい、結果、あいつはボディガードどころか兵士としての資格すら十分に持ってると認められた」
「すっごい話ね」
「そうか?」
言っていると、生クリームを綺麗に洗い流してさっぱりしたリュオンが戻ってきた。
「何の話してるの?」
「フローラが俺より強ぇって話だ」
「あぁ・・・」
何だかとても納得した表情になったのは気のせいだろうか。
「ライも運がいいんだか悪いんだかなぁ。普段はあれほど心強い味方はいねぇってのに、いったん怒らせると最悪の敵になる」
「何の話ですか?」
タイミングよくフローラが戻ってきた。
そういえば、さっきからライの悲鳴が聞こえなくなっている。
「あ、えーと、そうだ。お前、二階でライと何やってたんだ?」
苦し紛れにカインが話題を逸らそうとする。
「マッサージです。いや、どちらかと言えば整体ですかね」
それに気付いているのかいないのか、フローラはカインの出した話題にのってきた。
「整体?」
「関節をボキボキ鳴らして肩こりとか腰痛とか治すやつです」
アバウトな説明である。
「ちなみに、ライは?」
興味に駆られてリュオンが問う。
フローラはにっこりと笑った。
気絶したので置いてきました。」
「・・・・・・(汗)」
「導師もやります?」
すばらしい笑顔で問いかけるフローラ。リュオンは、その笑顔の裏にとてつもなく不穏なオーラが隠れているのを感じた。
「ううん。遠慮するよ」
「そんな事を言わずに。ほら、顔色が悪いですよ?」
「気にしないで」
「仕事柄、気にしないわけにはいかないんですよねぇ。さぁ遠慮せずに」
フローラは冷や汗をだらだらと流すリュオンの背後に回り込み、その頭の横に手を添えて、彼の首をいけない方向に回した。
ごきっ。
「!!!」
痛みのあまり表情が固まるリュオン。
「やはり徹底的にやったほうがよろしいようで」
みしっ ばきめきごきごきっ べきっ!
本当に遠慮なくリュオンの関節を鳴らしまくったフローラは、ようやく満足したのかテーブルに沈没したリュオンを尻目に 自分の席に着いた。
「・・・フローラ?」
「導師だったら大丈夫です。目覚めた時には見違えたように体が軽くなってるはずですからね」
「いや、そういうことじゃなくて・・・。起こした方がいいんじゃない?」
「日付が変わるまで起こさない方が無難だと思いますよ。今日はどうやらツキがないようですから」
「え?」
「はぁ?」
よく分からない台詞を吐くフローラに、ヘンゼル達は訝しげな視線を送る。
「今朝、占いをやってみたんです。そうしたら、今日の導師は稀に見る運の無さだと出ましてね」
「・・・それで、あんな元気がなかったのかなぁ」
ヘンゼルの独り言にフローラが肯く。
「恐らく。だって導師、今日茶碗を真っ二つに割り、外を見ればカラスが舞い、出かけようとしたら 靴紐が切れていて、街に出れば目の前を黒猫が横切ったって言ってましたし」
「げっ」
それだけ立て続けに不吉なものを見れば、誰だって元気を無くすだろう。
「明日、もう一度パーティ開きます?今度はライがいないうちに」
「いいかもな」
「プレゼントは渡しちゃったから、次は騒ぐだけのパーティ?」
「そうなるわね。いつもと同じになっちゃうけど、今日のよりはマシでしょ」
「そうだね。こんな誕生日じゃあんまりだし」
こんな話をしている間に12時を過ぎ、9月26日は終わった。
夜が明けるころには、リュオンの不運も尽きている事だろう。
「ハッピーバースデー、リュオン導師」
フローラは小さく呟き、窓の外を見た。
星が綺麗に瞬いている。


きっと、今日は晴れだ。









こんな日も、たまにはあるという話。



後記

ギリギリになって書き上げたので、ズタボロです。ゲフッ(吐血)
誕生日だというのに不幸なリュオン。私的にライからのプレゼントがパイ投げのパイというシーンが書きたかったんです(蹴)
正確には、リュオンにパイ皿を投げつけるライが(笑)
フローラからのプレゼントは、得体の知れない薬です。どんな薬かは、恐ろしいので考えません。
あとフローラの整体。やっている最中の痛みは地獄のようですが、終わると天にも昇るような極楽気分が味わえます。
ただし、途中で気絶すると痛いだけで終わってしまうので要注意(ぇ
ちなみに、キャラ日記を見ると前日の様子なども分かったりします。
メインはリュオンであるべきはずなのに、やたら出番が少ないのは気にしないでください(死)
とりあえずはリュオン、誕生日オメデトウ。

up date 2003.09.26




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