「今日はカーレンまで出かけましょうか」
そんな台詞とともに、爽やかに笑うフローラに叩き起こされた午前2時。
何て言うかもう逆らうとか断るとかするのは無意味に感じた僕は、差し出されたその手を取った。
僕が「誰かに言っておかなくていいの?」って聞いたら、フローラはどこからか真っ黒い封筒を取り出してキッチンのテーブルの 上に置いた。あれの文面は考えない事にしよう。まず間違いなくあれを最初に見るライの反応も。
そして僕らはまだ空が白んですらいない中をカーレンに向かった。
うー、こんな時期に、こんな時間から起きてるもんじゃないなあ・・・。寒いし眠い・・・。でも寝たら凍死しそう・・・。
カーレンに着いたのはちょうど夜明け頃。『犯罪都市』カーレンは、拍子抜けするくらい静かだった。
どこかに向かってるらしいフローラにその理由を聞いたら、「無法者にだって睡眠は必要ですからね」だって。
僕も睡眠が欲しいなあ。
「あ、ここです」
そう言ってフローラが立ち止まったのは、何の変哲もない一件の家の前。
知り合いでも住んでるのかな?
ノック音に応えて出てきた男の人は、そこに立っているフローラを見て親しげに笑いかけた。
「なんだ、フローラじゃねぇか。隠し子連れて逃亡旅行か?
「速やかに今の発言を取り消さないなら毒殺しますよ、トキ」
笑顔で凄い会話してるよこの人達・・・!
「まぁンなこたぁどうでもいいとして、実際何の用よ?」
「柔らかなベッドでの快適な睡眠を頂きに」
「何ソレもう決定事項?」
トキさん、僕はあなたに全力で賛成します。
っていうかフローラ、何か性格変わってない?
「まぁいいけどよ・・・嫌だっつっても入ってくるんだろ?どうせ」
「もちろん」
入っちゃうんだ。
それって不法侵入じゃないのかな・・・
トキさんの家には見慣れないアンティークの置物がたくさんあって、それを見ているだけでも飽きそうになかった。
でも、今は眠いや。それに、ずっと廊下にいるには寒すぎる。
「右側の二番目が空いてるぜ。好きに使うといい。後でストーブも入れてやる」
「だそうですよ、ヘンゼル」
「フローラは寝ないの?」
「慣れてますから」
あぁ、普段から結構夜更かしだもんね、フローラって・・・
うーん、だめだ、意識が・・・持たない・・・・・・・



「行動開始時刻ですよヘンゼル」
「うわぁっ!?」
な、何何!?何なの!?目が近いよ!誰!?
「・・・あれ?フローラ、だよね?」
「えぇ、そうですよ」
なんだ、びっくりしたなぁ。変装した上いきなりアップで迫ってこないでよ、驚くから。
やっぱりフローラって、変装すると雰囲気変わるなぁ。ただ髪と瞳の色を変えて、いつも着ないような服にするだけなのに。
「どうかしましたかヘンゼル?」
「あ、気にしないで。雰囲気変わったなぁ、って思って見てただけだから」
「そりゃあ慣れてますから。
何で、って訊いていいのかなぁそれ。
「さあさあ、あなたもとっとと着替えて。いい品物を手に入れようとするなら開店直後。安く手に入れようとするなら閉店間際と相場は 決まってますからね」
え。
ってことはもしかして、買い物が目的だったの?
良かった、犯罪の片棒担がなきゃならないかと覚悟してたんだけど、違ったんだ。
「ヘンゼル。今あなたとてつもなく失礼な事を考えやしませんでしたか?」
「気のせいだよ。」

何で分かったんだろう。読心術?
気を付けなきゃならないのはリュオンとマイシェルだけだと思ってたのに、フローラも同類だったんだね。
「だからヘンゼル」
「ごめん何でもないよ本当に」
うわ、思いっきり目ぇ逸らしちゃった・・・!こっち見てるよフローラ。
冷や汗とか、バレないかな・・・
「・・・だったら、いいんですけどね。長生きしましょう、お互いに。
最後の台詞が物凄く気になるけど、とりあえずは助かったみたいだ。出てってくれたよ。
さて、僕も着替えなきゃ。



「ありがとうございました、トキ。おかげで助かりました」
「おーよ。じゃ、またな」
「えぇ。カインにもよろしく伝えておきましょう」
そうして僕らはトキさんの家を出て、カーレンの街へと買い物に繰り出した。
店を物色する途中、僕はフローラに訊ねた。
「あの人、カインの知り合いでもあるの?」
「そりゃそうです。酒飲み仲間ですからね」
あぁ、そういうことか。
そういえばカインとフローラも出会いは酒場だったとか言ってたよね。同じような感じなんだろうな、きっと。
・・・でも、酒飲み仲間って、イコール賭博仲間だよね。まさかそれで犯罪沙汰に・・・!
「巻き込まれたりしても、一度も捕まっていませんから御安心を」
そうなんだ、良かったぁ。
・・・って、あれ?
「何ですかヘンゼル?」
うわぁすっごい笑顔。
今日一日、フローラと一緒にいるのが不安になってきたよ・・・
「不安だろうが何だろうがついて来てくださいね。迷子になって人買いに攫われたりしたら、いくら私でも助け切れませんから」
そうだった。ここはそういう街なんだ。気をつけないと。
そうは言っても僕の横にいる人が一番危ないんだから、逆に安心かもしれないけどね!
ああもう、やけくそだ。
「えーと。鶏肉、牛肉、にんじん、ライム、キャベツに牛乳。胡椒にロウソク、ウィスキー。武具の錆び止め、オリーブオイル、大きな 白布、パンヤ綿、ニトログリセリンに乾燥ヨモギ」
「随分いろいろ買うんだね」
「えぇ。でも財布に打撃は与えません」
「・・・・・・・・・どうやって?」
「そりゃもう値切り倒すに決まってるじゃないですか。」
アツィルトで商売してる皆さんすいません。

今日一日だけで、皆さんの店は閉店まで追い込まれちゃうかもしれません。
「食品以外のところから買っていきましょう。まずは薬屋ですかね」
あぁ、何かすっごいご機嫌だね、フローラ・・・!
もう止められない・・・



「いらっしゃい。久しぶりだねぇ、お嬢ちゃん」
「お久しぶりです、ルットさん」
さすがフローラ、薬屋さんの常連なんだね。
それにしても色々あるなあ。何かの鱗と爪と牙。干しキノコ。乾燥した薬草と根っこ?干し肉?漬物?うーん。
もうできてるのも売ってる。風邪薬に胃腸薬に痛み止め。透明化の薬に性転換の薬に悪魔召喚の・・・!?
フローラ、まさかこういうの買ってないよね!?

いや、落ち着け、落ち着くんだ。いくらフローラとはいえこんなうさんくさい薬に手出しするもんか。
それを言ったらこの店自体がうさんくさいけど、相手はあのフローラだ。きっと大丈夫だよ、うん。
でもなあ、こんな怪しい薬ばっかり売ってる店の常連って・・・。フローラって・・・一体・・・。
「行きましょうか、ヘンゼル」
「あ、終わったの?買い物」
「えぇ。色々買いましたね。トリカブトと毒ニンジンの根、毒ウツギの葉、それにヘビ毒。」
何に使うのそれ。
殆ど全部にって字が入ってるよ。唯一入ってないトリカブトも猛毒だし。
「ヘンゼル。毒と薬は紙一重なんですよ?使用量さえ間違えなければ、これらの品はどれも薬になるんです」
うん、それは師匠にもリュオンにも教わった。
でもフローラだし。
「人をむやみに疑っちゃあいけませんよ、ヘンゼル」
「・・・うん。」
これからは食事の時、フローラが怪しい動きをしていないか気をつけることにしよう。



最初に入った店からしてアレだったから、その後に入った店はどれも怪しさ満点だった。
そして、そのどれもフローラは常連だってあたりが、もう・・・
怪しい祭壇と数珠と宗教画が並べて売られてる店?鎧の横にメイド服とか置いてあったりするような店?
カウンターの奥にペンキで『GO☆HEAVEN!』って書かれてる店?ショッキングピンクの外装の店?
『店主に勝てたら全品半額』ってポスターが貼ってある店?
そして店員さんに勝っちゃうフローラ!
あの店員さん、店主不在で代理を引き受けただけだったのに・・・
後から出てきた店主さんは、フローラを見るなり「どの品物をどれだけ持って行ってもいいから勝負だけは勘弁してくれ」って必死に 頼み込んできた。
ねぇ、少しくらい高くたっていいからさ、もっと普通に買い物しようよ・・・!
「神がそう仰っておられるのです」とか「あなたの奥さん、呼んできましょうか?」とか「天国よりも地獄のほうがよろしいでしょう」 とか「あなたの頭に比べれば全然マシなレベルです」とか言わなくっていいから!
財布にダメージ与えないより精神にダメージ与えないほうがよっぽど重要だよ!ねぇ!
何で買い物一つでこんなに疲れるんだろう。いつもはもっと楽なのに。
「ヘンゼル、大丈夫ですか?今にもくたばりそうな顔してますが」
「うーん・・・あんまり大丈夫じゃないかも・・・」
っていうか何で店員さんとあれだけの死闘を繰り広げてたフローラのほうが元気なの?
僕はただ、フローラについていくくらいの事しかしてないんだけど・・・。
「どうぞ」
って、えぇ?
フローラが差し出した紙コップにはホットココアが、紙袋には色んなお菓子がいっぱい詰まってた。
買いたてだよね、これ。いつの間に買ったんだろ。
「『疲れた時には甘いもの』です。まだまだ買い物は続けますからね、今のうちにたくさん糖分とっておきなさい」
「・・・うん。ありがと」
甘いものって人を幸せにする、っていうしね。
このココアおいしいなぁ。



「さて、後は野菜のみ。ちゃっちゃと行きますよー」
「うん」
「ヘンゼル、野菜が一番新鮮で、かつ安い店は?」
「リンゴ抱えたウサギが看板の店」
「やはりそこですか。決定ですね」
さすがフローラ、カーレンのことは知り尽くしてるんだね。
こんな裏道があったなんて、初めて知ったよ。ここがあの店の近くに続いてるんだ。
っていうか裏道なんて揉め事の温床みたいなとこなのに、大丈夫なのかな・・・ん?
今、視界の端に何か・・・
あれって人間かな?隠れてこっち見てる・・・怖がってる?
・・・まさか、犯罪者の方が避けてる!?
やっぱりフローラって何者なんだろう・・・!?
「着きましたよ」
あ、ほんとだ。さっきのことは早いうちに忘れよう。
「ヘンゼル、一芝居打ちますのでうまく合わせてくださいね」
無茶言わないで!

「すいませーん、にんじんとキャベツとライムとカボチャとトマト貰えますー?」
「あいよっ!しっかし嬢ちゃん、よく食べるねぇ!息子さんが育ち盛りなのかい?」
「えぇ。それに、この子の他にもあと5人ほど家にいるもので」
それってライたちのこと!?

「ご、5人かい・・・そりゃあ大変だ・・・」
真に受けてる!
「どの子もみんな食べ盛りな上、女手一つで食わせていかなきゃならないものですから、もう大変で大変で・・・」
芝居うまいなぁ、フローラ・・・ちゃんと涙まで・・・。
店のおじさんも貰い泣きして頷いてるし・・・。
僕も何か言ったほうがいいのかな?
「お、お母さん、大丈夫?」
あぁ、すっごい違和感!
「大丈夫。大丈夫だから、心配しないで。ね?」
言葉だけ聞いてればそれっぽいけど、フローラが涙を拭くフリをして僕に「よくやった」と言わんばかりの目線を送ってると知っ たら、おじさんはどんな反応をするんだろう。
「夫は酒を飲んでばかりで何もしてくれませんし、それどころか賭博に興じて・・・。あぁ、私ったら。すみませんね、こんな愚痴聞か せてしまって」
「いやいや、いいんだよ。まだまだ若ぇ身だってのに、苦労してんだなぁ」
そうだね、夫って多分カインのことだしね。
「よぉし、嬢ちゃん!さっき言ってた品、代金はいらねぇ。ほれ、持ってけ!」
「え?そ、そんな、悪いです」
「いいから持ってけ。そんな苦労話聞いといて、儲けなんて考えてられるかってんだ」
おじさん、いい人だね・・・。すみません、あなたみたいないい人を騙してしまって。
「旦那にゃロールキャベツと見せかけた唐辛子の塊でも食わせとけ。こいつぁ効くぜ?」
前言撤回!おじさん、あなたは危険人物です!レシピと大量の唐辛子を渡しながら、そんなこと言わないで!
フローラの料理を食べさえすれば、どんな人もおとなしくなるから!
「そうですね、それくらいの心構えでいかないといけませんよね。さっそく今晩試してみましょう」
やめてぇ―――――――――――――!!!
フローラの料理&唐辛子爆弾なんてそんな危険極まりない行為、やめてあげて!
「逆境に負けんなよ、嬢ちゃん!応援してっからな!」
「ありがとうございます。では」
だ、大丈夫かな・・・今日の食事、大丈夫かな・・・!
食事内容は大丈夫だったとしても、それまで僕の胃は平気なのかな・・・!?



「これで終わりですね。大丈夫ですか?ヘンゼル。荷物は重くないですか?」
「う、うん。全然重くないよ」
本当に、何であれだけのものを買って、こんな軽いんだろうね。
鶏肉2kgに牛肉5kgプラス野菜とか入ってる重さじゃないよ。
それに、このリュックの大きさじゃ明らかに容量オーバーだし。どうなってるんだろうこれ。
「このリュック、」
「?」
クリスマスにどこかの誰かが這い出てきた箱を参考に導師が作ったんだそうですよ。どうやら成功していたようですね」
あー、何か耳がおかしくなっちゃったみたいだなあ!
クリスマスの、ってアレだよね!?どう考えてもこないだのアレだよね!?
あんなの参考にして作ったの!?
「いや、こんな便利なものはそうないですよ。さすが導師です」
そりゃ便利だよ。それは認めるけど、何か嫌だ!
「私もお返しに、頼まれていた例のアレを早く作ってしまわないと・・・」
例のアレって何?」
「世の中知らないほうがいい事はたくさんあるんですよ、ヘンゼル」
怖・・・・・・!
何する気なのさフローラ、それにリュオン!
「さぁ、早く帰りましょう」
背後に「例のアレを作るために」って言葉が見え隠れしてる気がするよ。
でも、確かに早く帰らないとなぁ・・・。晩ご飯の用意もしなきゃならないし。
あー、どうしよう・・・。



家が見えてきたところで、僕はあることに気が付いた。
窓から何か白いにょろにょろしたものが出てる。
何だろうあれ。
しかもあれ、キッチンの窓だ。
それに、ちょっとずつ伸びて、る?
「フローラ、あれ・・・」
「ドライアイスの煙を固形化したようなシロモノが、窓から生えてきてますねぇ」
生えてる、ってフローラ。それ何か気持ち悪いよ。
「まあ、近づけば分かるでしょう」
フローラはそう言ったけど、近づいてもそれの正体は一向に分からない。
分かった事と言えば、やっぱりそれは伸びてきてるってことだけだ。
「・・・ああ」
「どうしたの、フローラ?」
「犯人は導師です」
えぇ!?
いきなり立ち止まったかと思えば、そんな問題発言ぶちかまして、どうしちゃったのさフローラ!?
「生クリームですよ、あれ」
あれ、ってあのキッチンから伸びてきてる、あれ?
・・・触ってみてこようか。
「どうです、ヘンゼル。生クリームでしょう」
「・・・うん」
確かに生クリームだ。土のついてないところ、ちょっとすくって舐めてみたら甘かったし。
でもこれ、生クリーム何カップ使ったんだろう?
「だから導師に料理を任せちゃいけないんですよねぇ」
フローラがそう呟いたから、僕は疑問を込めて彼女を見上げた。
「何か『面白い』と思ったら、すぐそれにハマるんですよ、導師は。で、それは特に、料理関係に関して多く見られるんです。私が知る 限りでは、リンゴの皮むきと野菜のさいの目切りとすりゴマ作り、それにべっこう飴作りですか」
リュオン・・・なんでそんなものにハマるの・・・?
「まぁ、それもある意味では才能なんでしょうけどねぇ」
そうだろうけど、これはちょっとなあ。
「これ、どうしよう?」
「放っておけば肥やしになるんじゃないですか?その辺の野生動物のエサにも」
そうだね。この時期なら腐ることはないだろうし。
「ヘンゼル、あれ何だと思います」
「え?」
急にフローラが遠くの一点を指差した。
僕もそっちを見たけど、何もない。
「フローラ、何が・・・」
振り向いたけど、そこにフローラはいなかった。
慌てて辺りを見回したら、家の中に素早く駆け入るフローラの背中が視界に入った。
まさか!?
僕もドアに駆け寄って、ドアノブを回してみる。でもそこには鍵がかけられていて。
呪文を唱えてみても、それが開く気配はない。この強力さ、ほぼ間違いなく術主はリュオンだ。
「やられた・・・・・・!」
まったく、僕のばか!あんな古典的な罠に引っかかるなんて!
そりゃあフローラの演技力が凄いことは知ってるけど(八百屋さんで見たばっかりだし)、でもまさか!
無意味に悔しい・・・!
あー夕日が綺麗だなあ。
なんて現実逃避してる場合じゃない。このまま夜になっちゃったら凍死の危険がリアルに迫ってくるんだった。
夜になる前にどうにかしなきゃ。
そうだ、窓!どこか窓が開いてれば、そこから入れるかも・・・
・・・甘かった。
なんで全部の窓がシーツで目隠しされてる上、魔法がかけられてるのさ!?
二階の窓にまで!
そんなに僕を中に入れたくないの!?
これじゃあ中の様子も伺えないよ。
キッチンの窓から入ったら生クリームまみれだしなあ。
ガラス割って無理やり侵入してもいいけど、それだとクリスマスのあれらみたいで嫌だ。こないだそれを直したばっかりだし。
「ヘンゼル?おい、どうした。そんなとこでうずくまって」
幻聴かな、ギルバートの声が・・・・・。
幻聴じゃないって!
「ギルバートっ!?」
「おう。ほれ、とっとと入れよ。鍵はもう開いてるぜ」
そんな何事もなかったかのように!?
何のせいで僕が家の中に入れなかったと思ってるんだろう、この人。
「・・・ドアノブに電流が流れてたりしないよね?」
するか。何で味方に対してンなことしなきゃなんねぇんだ」
敵にだったらやるの?
まあ、どうしようもなくなったら僕だってやるかもしれないけどさ。
それにしても、なんかやけに静かだなぁ。
皆どこにいるんだろ・・・?

「ハッピーバースデー、ヘンゼルっ!」

うわっ!え?な、何?
クラッカーにケーキにプレゼントボックス・・・何のパーティ?
「やだ、もしかしてお兄ちゃん、何のためのパーティだか分かってないの?」
「・・・うん。」
「あなたの誕生日ですよ?今日は」
え?今日って1月の・・・あっ!そういえばそうだった!
あんな真夜中に叩き起こされたから、今日の日付見てなかったよ。
「わざわざあんな時間から買い物に行ってもらったのも、この準備があったからよ。ま、買い物自体もちょっとしたプレゼントだったんだけど」
「あれが?」
どのへんがプレゼントなんだろう。貰っても嬉しくないどころか苦痛だった気がするんだけど。
「フローラ。お前、どんな店に・・・」
「『D’s Loot』、『大鳳堂』、『クラッシャーハンズ』、『雷鳴屋』、『天使の花園』、『セイント・ゲーム』に『白兎野菜店』」
「それ、どこも店主が変人ってことで有名なとこだよな?」
「そうですね」
フローラ!それを承知であんなとこばっかり回ってたの!?
「・・・楽しかったか?」
「楽しいとか楽しくないとかじゃなくて、疲れたよ」
「だろうな」
ライ、その自分も経験者ですって言わんばかりのため息は、もしかして・・・
「お前も何年か前、フローラに引きずり回されてたよなぁ。確かパーティの主催者はリュオンだったか? で、国王陛下も王后陛下もノリノリでやってたんだよな」
「そんなこともあったねー。懐かしいよ」
うっわぁ。
レッシュゴルドって一体、どんな国だったんだろう。
「とにかく」
「何?マイシェル」
「料理も片付けも今日は休んで、ゆっくり楽しみなさい、ヘンゼル」
「・・・そうだね」
こんな機会、滅多にないもんね。
そういえば、確かに今日は料理も洗濯も掃除もやってないな。「買い物自体がプレゼント」って、そういうこと?
「ほれ、ぼっとしてねぇで荷物下ろしちまえよ。それも料理しちまうから」
「え?『料理しちまうから』ってカイン・・・?」
「言っておくけどこの料理、作ったのは主にライとギルバートとカインだよ」
「二人とも料理できたの!?」
「失礼な奴だな。基礎くらい身に付いてるに決まってんだろ」
「俺は軍でちょっとやってた」
あぁ、遠征の時の炊き出しか。それでも意外だよ、二人とも。
ん?
料理。フローラはアレで、リュオンもあんまり得意じゃなさそう。グレーテルも大の苦手なんだよな。
そうなると、料理の腕前がどのくらいか見せてないのって、あとは・・・
「・・・マイシェル?」
「何かしら?」
怖いなあ、その笑顔。裏に何かありそうで。
「マイシェルが作る料理って、どんなの?」
「私の料理?すっごいわよ」
今後一切気にしないでおこう。
「さぁ。今日はまだまだこれからだよ。パーッと楽しもう!」
「お前は生クリームの片付けから始めろ」
「やだなぁライったら、そんな細かい事気にしちゃって!ハゲるよ!」
「うるせぇ!」
「ヘンゼル、鶏肉の香草焼きと牛ヒレ肉のステーキ、どっちがいい?」
「どっちも食うぜ!」
「あんたに聞いてんじゃないでしょカイン!それとも、もう酔ってんの!?」
相変わらずの騒ぎだなあ。
明日、みんなぐったりしてそう。
「お兄ちゃん」
「ん?」
どうしたのグレーテル、そんなこっそりと。
「これ、プレゼント」
・・・望遠鏡?
いつの間に買ったんだろ、こんなの。
「ギルバートに教わって作ったのよ?ちゃんと遠くまで見えるの。このくらい大きいレンズ使ってれば、星も見えるんだって」
うわぁ・・・
手作りには見えないよ。凄いなぁ、こんなのが手作りできちゃうんだ。
苦労しただろうな、こんなの作るなんて。
「ありがと、グレーテル」
「ハッピーバースデー、お兄ちゃん」


拝啓、お父さん、お母さん。
僕はこんなにいい仲間と出会えました。グレーテルもいてくれてます。
嫌な事もたくさんあったけれど、それでも生まれてきて良かったと思います。








僕は今、とても幸せです。







end.



後記

えー、半年近くも遅れちまいましたが主人公誕生SSです(蹴)
相変わらず誕生日記念とは思えない仕上がりとなっております。祝ってねぇよこれ。
それでも書き上げられただけで満足ですよ、えぇ。他はもうノーコメントで。
望遠鏡はレンズ二枚組み合わせれば簡単にできるそうですが、その真偽も知らぬまま書いてしまいました。実際にはどうなんでしょう。
ああもう、それも含めてノーコメントだ(こら)

up date 04.06.28



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