「はいはい、緊急会議を始めるよー」
そんなリュオンの一声で、二階にある会議室(書斎)に集まったチーム焼きそばのメンバー達(ギルバート除く)。
「珍しいわね、キッチン以外のところに集合なんて」
「そりゃそうさ。だって、キッチンにはギルバートがいるんだよ?そんなところで会議できないじゃないか」
「・・・ってこたぁ、議題はギルバートの誕生日について、か」
「そういうこと」
そういえば確かに、そろそろギルバートの誕生日である12月8日が迫ってきている。
「で、訊きたいんだけどさ。誰かギルバートが欲しがってるもの知ってる?」
リュオンに言われ、他のメンバー達は、はたと顔を見合わせた。
あのギルバートが欲しがっているもの?
それはつまり誕生日プレゼントになるであろうものなのだろうが、贈る相手がギルバートとなると。
「ンなもん、分かるか」
の一言に尽きてしまう。
何せ、一日中寝てばかりのギルバートが欲しがっているものだ。いくら考えても「睡眠時間」か「静けさ」くらいしか思いつかない。
他に候補を挙げるとしても「体力増強グッズ」程度だろう。
「ただでさえ、何を考えてるか分かんないものね」
そうため息をついたのはグレーテル。
彼女は以前、ギルバートと買出しに行ってふらふらとどこかに行ってしまう子供レベルの勝手気ままな行動に振り回された挙句、 高いか安いかも判断しない無計画な買い物をされ、所持金が足りなくなって頼まれた物品の半分以下しか買えなかったという嫌な 体験をしている。
グレーテル曰く、「もう二度とギルバートとは買い物に行きたくない」だそうだ。
「前はもっと読みやすかったんだがな。起きてたから」
ライの呟きの最後の方に、フローラとリュオンが同意した。
「軍にいた頃は、もっと普通の生活してましたしね」
「うんうん。平均的な睡眠時間で満足してたよね」
そんな事を言われても、出会った時にはすでにアレだったヘンゼルとグレーテルには想像もできない。
ちなみに、マイシェルとカインは何度かきちんと覚醒していた頃のギルバートに会った事がある。
「あん時ぁりりしかったのになぁ・・・」
想像もできない。
「まぁ、そこで僕は考えたんだ。名付けて『こっそり欲しいもの訊いちゃうゾ☆大作戦』!」
「名付けんでいい」
物凄く嫌そうなライ。
「説明もしなくていいわ」
マイシェルもげんなりと言葉を吐き出す。
名前を聞いただけで内容が分かってしまった。
「それで、代表選手は誰にするんですか?」
「選手なのか?」
「選手です」
(そうなんだ・・・)
「僕とマイシェルは、ターゲットに不審がられるからやめておいたほうがいいと思うんだ」
「あ、じゃあ私も無理です。最近私が近寄ると、意識されないようにこっそりと間合いを取ってるみたいで」
「フローラ、ギルバートに何やったの!?」
「色々あるんです。そう、色々」

あのギルバートが警戒するほどだ。相当な事をしたに違いないとは思うのだが、本当に何をしでかしたのだろう。
「・・・命に関わる事はするなよ。信頼に関わることはするなと言っても、もう無駄だろうしな」
(ライ、お願いだから諦めないで説得してよ!)
「まぁ、とにかく。リュオンとマイシェルとフローラが候補から外れるとして、残るは俺かヘンゼルかグレーテルかライってことか」
「ライがギルバートの欲しいもの聞くってのも不自然よね〜」
「献立のリクエストだったら不自然じゃないだろうけどな」
グレーテルとカインにそれぞれ言われ、ライは憮然とした。
それでも、その通りなのだから言い返せないあたりが哀しい。
「じゃあ僕かグレーテルかカインが訊きに行くんだね」
「そういうことになるね。カインは酔ったふりして訊くのが一番自然かな
どういう意味だろう。
最も疑問に思ったのは当のカインらしく、彼は恐る恐るリュオンに問い正した。
「・・・なぁ、俺って酔うとどうなるんだ?」
それに答えたのは酒飲み付き合いの長いフローラだった。
「普段より優しくなりますね」
本当に、どういう意味だろう。
「詳しい事は聞かないほうが無難ですよ。安心して酒を飲みたいと思うなら」
そう言われるとますます気になるのだが、気になる以上に怖いので、カインはそれ以上訊くのをやめた。
(僕とグレーテルは未成年だから、酒盛りにはめったに付き合わないしなぁ・・・)
知りたいのは山々だが、知ってしまったらそれはそれで嫌な気がする。
「それじゃ、カインは『夜、酔ったふりして訊く』で決定ね」
「決定なのか!?」
「もちろん。で、ヘンゼルは今すぐ。グレーテルは影武者ね」
「今すぐ!?」
「影武者って?」
「ヘンゼルが討ち死にしたら、身代わりになって訊きに行くってこと」
(・・・討ち死に・・・)
訊くのに失敗してしまうことを指しているのだろうが、凄い表現だとヘンゼルは思った。
「それでも駄目だったら?」
「私刑(リンチ)にでもして訊きだす」
それでいいのだろうか。
「導師。何なら自白剤でも注射したほうが話は早いんじゃないですか?」
「いいね。それ採用」

(そんな危険な方法採用しないで!)
話がダークな方向に逸れはじめている。
「たかが誕生日に欲しいもの訊くくらいの事で、そんな禍々しいことをするな!」
(ライ、ナイス!)
ヘンゼルはテーブルの陰で、ぐっと親指を立てた。
「う〜ん、じゃあ自白剤を使うのは最終手段にしておこうか。ね、フローラ」
「そうですね。いささか残念ですが
(ちょっと待って!?最後に何か不吉なこと言わなかったフローラ!?)
そういう事をするから間合いを取られたりするんじゃないだろうか、とヘンゼルは思ったが、それを口に出したら最後自分がターゲット にされそうなので、抗議の声を必死に飲み込んだ。
実を言えばライもカインも同じ事を思っていたが、ヘンゼルと同じ理由で口出しするのを思いとどまった。
「えーと、つまり・・・今すぐ僕が訊いてくれば、何事もなく、無事に済むってことだよね」
「そういうことだね」
すぐに肯定され、ヘンゼルは安心した。
自分がギルバートの欲しいものを聞き出してしまえば、ギルバートの身に危険が及ぶ事はないのだ。
だったらすぐに訊いてきて、ギルバートの安全を確保し、かつ自分の精神的な安全も確保する。これに越した事はない。
「じゃ、いってきます・・・」
「いってらっしゃ〜い♪」
実に楽しそうなリュオンの声をBGMに、ヘンゼルは書斎を出てキッチンに向かった。
軋む階段を下りる途中、『なぜ誕生日のプレゼントを決めるだけで、戦のような騒ぎになるんだろう』という疑問がヘンゼルの頭をよぎった。
(・・・考えちゃいけない。この家にいる限り、そういう事を考えちゃいけない・・・。)
そもそも、ここに住む人物達の性格からして常識外れなのだ。常識に当てはめようなどというのが間違っている。
(一種のお祭りだと思おう・・・)
そうでもしないとやっていけない。
この家にいる限り、常識人のほうが苦労するのだ。
改めて認識してしまったヘンゼルであった。





「ギルバート、起きてる?」
「あぁ、ヘンゼルか」
もそもそと身を起こしながら、ギルバートは指定席(キッチンの隅)からヘンゼルの方を振り返った。
「何か用か」
「あー・・・えーと、うーん・・・」
まさか本当の理由を言うわけにもいかず、何と言ってごまかせばいいのかとヘンゼルは悩んだ。
ギルバートはそんなヘンゼルをじっと見詰めている。
そして一つ身震いをしたかと思うと、何かを思いついたような顔をし、それからヘンゼルを手招きした。
「何?」
「いいから、来い」
いつもの彼に似合わぬわがままさで呼ぶのに疑問を抱きながらも、ヘンゼルは呼ばれるままに近寄っていく。
と、突然腕を引かれてバランスを崩し、気付くとギルバートの腕の中にいた。
「あー、やっぱあったけぇな」
「僕は湯たんぽじゃないよ!」
何とか離してもらおうともがいたが、よほど寒かったのか、なかなか離してもらえない。
「ギルバートぉー・・・」
そうしているうちに反応が一切返ってこないことに気付き、ヘンゼルはギルバートの顔を覗きこんでみた。
ギルバートはすでに熟睡していた。
(早っ!)
熟睡するまでに一分もかかっていないあたり、さすがである。
(寝てても腕の力は抜けないんだー・・・)
ということは、ギルバートが目覚めて離してくれるまでヘンゼルはこのまま、ということで。
(・・・諦めよう)
人生は諦めが肝心であるという事を、ヘンゼルは悟っていた。ことにこの家に来てからは、その悟りを深めていた。
しかし、ここで諦めたらリュオンとフローラが暴走しかねない。どうすればいいのだろう。
ギルバートが欲しがっているものは聞けずじまいだったし、もう一度訊こうにも、この熟睡っぷりではしばらく起きてくれそうにない。
どうすればいいのかと頭を悩ませているうち、いつしか心地よい眠りに誘われて、ヘンゼルは目を閉じ・・・


「で、寝ちゃったんですねぇ」
ヘンゼルの帰りがあまりに遅いので様子を見に来てみれば、そこには仲良く眠りこけるギルバートとヘンゼルの姿があった。
何ともほほえましいその光景を見て「鮭持った熊みてぇ」と言った野郎がいたことは、この際無視する。
「これじゃ、起こすわけにもいかないよね。どうする?」
「う〜ん」
「何がいいのか、分かったぞ」
「本当!?」
発言主であるライに全員が注目すると、彼は戸惑うことなく言い放った。
「防寒グッズ」
・・・・・・。
「・・・あぁ、いいかもしれないわね。放っといたら誰にでも抱きついてきそうだし」
「良く分かってるじゃないですかマイシェル。それ、ギルバートは本当にやりますよ」
「本当に!?」
「ええ。私も小さい頃はよくやられたものです」
今はやられなくなりましたよ、子供の方が体温高いですから。とフローラが言った途端、グレーテルは即座にギルバートの傍から一歩離れ た。
「大丈夫だグレーテル。獲物を捕らえた直後なら捕まる心配はねぇ」
「獲物って、もしかしなくてもヘンゼルのことよね」
寄り添って眠る二人を見て「鮭持った熊」と表現した彼には、ヘンゼルが獲物に見えるのかもしれない。
「じゃ、プレゼントはそれで決定。異論はない?」
皆が頷くのを確認してから、リュオンは未だ眠り続けているヘンゼルを指差した。
「・・・どうするべきだと思う?」
「処理に困るところね」
「でも」
フローラはそこでいったん言葉を切り、何事かを考え込むように顎に手を添えた。
「一番簡単なのは、放置する事ですよね」
考え出された結果がこれである。
確かに彼女が言うとおり、放置するのが一番簡単な方法だが、それでいいのか。
「そうだね、そうしよう」
それでよかったらしい。
こうして『こっそり欲しいもの訊いちゃうゾ☆大作戦』は幕を閉じた。




ギルバートの誕生日、当日(12月8日)。
夕食後に一同はキッチンに集まり、代表であるヘンゼルとグレーテルが湯たんぽとカイロと腹巻きをギルバートに手渡した。
「誕生日おめでとう」
今日が誕生日だということを忘れていたのか一瞬ギルバートの動きが固まり、そして何事もなかったかのようにあっさりと受け取った。
「・・・ありがたく貰っておく」
恐らく『貰えるなら貰っておこう』という心境なのだろう。その表情からは『誕生日だから嬉しい』等といった感情は読み取れない。
どちらかと言えば『この歳になって誕生祝いってのも、なんだかなぁ』というような雰囲気だ。
(そろそろ三十路って時に祝われるんじゃ、ね)
そう思いながらも祝ってしまう自分達もどうかとは思うのだが。
「ギルバート」
「ん?何だフローラ」
「三十路近くなって睡眠を取り過ぎると、脳細胞が運動不足で死んでしまうって知ってますか?(大嘘)
完璧な笑顔を浮かべたフローラに言われると、どんな事も真実めいて聞こえてくるから不思議だ。
そんなことはない、と知っているリュオンでさえもが一瞬信じかけてしまった。
「・・・肝に銘じておこう」
そう言ってうなだれるギルバートが、ヘンゼルには落ち武者のように見えたというのは、永遠に言わないでおこうと思う。




++余談++

「へっくしょんっ!・・・あ〜、寒っ・・・」
「おや、ギルバート。どうしたんですか?この間、防寒グッズをあげたばかりじゃないですか」
「使ってる。けどよ、温かくねぇんだ、あれ」
(???)
「どれも温かいはずだけど・・・。どれが温かくないのよ?」
「腹巻以外」
(ってことは、カイロと湯たんぽか)
「どーゆー使い方してんだよ」
「あぁ?カイロは袋を開けてだな、中の黒い粉を取り出して・・・」
「取り出すな!」

「??取り出すんじゃないのか?」
「あれは鉄と酸素が化合する時に発生する熱を利用しているものですよ。取り出したりしたら普通は火傷します」
「げっ」
「そのくらい知っとけ。一般常識だ。・・・で、湯たんぽは」
(あんまり聞きたくないなぁ)
「は?湯たんぽは中に水を入れて使うんだろ?」
「水を入れてどうする」

「あのねぇギルバート。湯たんぽは、中にお湯を入れるから『湯』たんぽなんだよ」
「そうなのか!?」
「・・・(こいつ、ガキでも知ってるような事を・・・・)」
「・・・(やっぱ年齢詐称してんのか?)」
「俺はてっきり、中に水を入れると勝手に沸騰するようになってるもんだと思ってたんだが」
「ただの容器に水を入れるだけで沸騰したらビックリだろ」
(ライ、そんな馬鹿にしたような顔で言わなくても・・・)
「それじゃあギルバート、これまではどうやって冬を乗り越えてきてたんですか?」
「たき火を焚いて暖を取ってた」
「オマエこれから外で寝たらどうだ」

(そりゃ確かに室内じゃたき火できないけど、だからって、そんな!)
「あんた、そろそろ世間ってものを知っといた方がいいわよ」
「うん。非常にマズイところにいると思うぞ?」
「あぁそうだな、そうしよう。世界は広いんだな・・・」


ギルバート世間知らず疑惑、発生。










後記

毎度の事ですが、私は誕生日の意味を取り違えているような気がします(死)
何でほのぼのしたものが書けんのだ俺・・・!
ギャグかシリアスの二極しかないのか!?
ほのぼのを目指したのに!目指したのに!(涙)
ちなみに、私はカイロを開けて中の粉末状のものを取り出したことはないです。なので、理科教師に聞きました。
うーん、やっぱ火傷するんですね。彼は一体どうやって火傷せずに暖をとったのやら。
そして最後に。
またUP遅れてしまってすいません(土下座)

up date 03.12.14



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