あたしはずっと、貴方を見ていた。
ずっとずっと、最期まで。


【 D R E S S 】



貴方は今日も、あのひとを見ている。
貴方の視線があのひとを追いかける。気が狂いそう。

          ねえ、少しはこっちを向いて?

知ってるわ。貴方はあのひとが好きなんだってことくらい。
あのひとは美人。百合の花みたいに清楚で優雅で無垢で綺麗で、あたしなんか敵わない。
あたしはベラドンナみたいに何の魅力もなくて、好かれるどころか見向きもしてもらえない。
敵わないって、判ってる。
それでも、貴方を追う目を逸らせない。
勝ち目なんて初めからないのにね?
なのに何で、あたしは。

         貴方の瞳にあたしが映るのを、夢見ているんだろう。

ねえ、王子様。こっちを向いて。
あのひとだけじゃなくて、あたしも見て。
あたしを見て。
あたしはここにいるの。あのひとより貴方に近い場所にいるの。
気付いてよ、ねえ。

この純白のドレスは、あたしがどこにいても貴方に見つけてもらえるように。
この歌声は、貴方の目でなく耳に訴えるように。
この踊りは、あのひとを追いかける貴方の視線を断ち切るかのように。

宙に広がるドレスの裾とあたしの歌声。
瞳なんて閉ざしてしまえ。貴方だけ見えていればいい。
思考なんて閉ざしてやる。貴方への想いだけが支配する。
この両脚は、貴方の元へ行くためだけに。
この両手は、貴方の視線をあたしに向けるためだけに。



          そう。貴方はあたしだけを見ていればいいんだわ。



貴方はやっぱり、あのひとを見ていた。
声をかけて初めて、あたしのほうを見てくれた。嬉しい。
それにしても、きみは誰だ、なんて。本当にあのひとしか見てなかったのね。あたしはずっと貴方の傍にいたっていうのに。
でも、もういいの。
貴方はもう私のもの。

銀のナイフが陽光に閃く。
王子の白い頸に突き刺さる。
溢れる真紅。ドレスを染める。紅く黒く深く、血の海が広がっていく。

壊れた人形みたいに四肢を放って、貴方はベラドンナの茂みに倒れた。
漆黒の実が血に浸る。
おいしそう。
あたしはそれを口に含んだ。
貴方の味がするわ、と微笑みかけても、貴方は何の返事もしてくれない。
つれない人ね。
あたしだけの王子様。もう誰にも渡さない。



あたしは真紅の海に沈む。
四肢を浸して王子を抱く。








純白のドレスは、もう見えない。












a camelliaの睦子さんとのコラボ。
睦子さんが書かれた詩「ドレス」をもとに、二人で小説を書いてみるという企画(?)
そしてこちらが、睦子さん作「ドレス」の小説版
併せてお楽しみください。




ブラウザバックでお戻り下さい



SEO [PR] 爆速!無料ブログ 無料ホームページ開設 無料ライブ放送