その日、チーム焼きそばの面々は異形の者と化していた。

「お菓子をくれなきゃ大人のイタズラするぞー
「なんて事口走ってやがるテメェ!?」
「ただ『TRICK or TREAT?』って言えばいいのよ。そうすりゃどんなイタズラもできるんだから
「い、イタズラで済むようにしてね・・・?」
そう、今日はハロウィーン。
それぞれがこの日ににふさわしくあるべく、趣向を凝らした仮装をしている。
ヘンゼルは魔法使いに、グレーテルは妖精に扮した。
ライはミイラ男、ギルバートは死に神、カインは吸血鬼。
フローラは人魚を、リュオンは狼男を、マイシェルは女王を模している。
「皆、よく似合ってるよ」
本当に月を見たら変身しそうなほど似合いまくっているリュオンに言われると、微妙に屈辱だ。
「お、うまいなこれ」
テーブルの上に並ぶのは、なんともおいしそうなお菓子の数々。
『TRICK or TREAT?(お菓子をくれなきゃイタズラするぞ)』の言葉にちなんで、それぞれが持ち寄ったのである。
もちろんライとヘンゼルは手作りだ。しかも市販のものより明らかにおいしそうである。
「なんか今日だけで2、3kgは太っちゃいそうね」
女性だけあって気になるのだろうか、マイシェルがテーブルの上を睨みながら悩んでいる。
それを見て、ライが何種類かのお菓子を指差す。
「そこらへんの皿はカロリー控えめだから安心しろ」
「あらそう?じゃ、遠慮なく」
マイシェルはぱっと表情を明るくし、皿一杯にお菓子を取り始めた。
(あれだけ食べたら、カロリー控えめだとしても太るんじゃ・・・)
そう思いはしたものの、口に出した後のことが恐ろしいので、ヘンゼルは何も言わずにおいた。
賢明な判断だろう。

コンコンッ

「ん?」
「何か・・・聞こえなかった?」
突然に玄関の方から聞こえてきたその音に、ヘンゼル達は顔を見合わせた。
「ノックの音?」
「まさか。誰がこんな僻地にまで来るのよ?」
「それに僕が張った結界、解かれたわけじゃないし」
ならば『誰が』『どのようにして』『何のために』この家を訪れたのか。
悩んでいる間に、再び乾いた木が叩かれる音が響いた。

コンコンッ

間違いなく、ドアがノックされる音だ。
一同は素早く目配せしあい、誰が言うでもなしに、ヘンゼルがドアを開けに向かう。
ゆっくりと廊下を渡り、向こう側には異邦人がいるであろうドアを開けた。
・・・そこにいたのは。




「TRICK or TREAT?」




ジャック・オー・ランタンを頭に被った何か。




バタァンッ!
思わず後ろ手にドアを閉めてしまった。
(いっ・・・今、何かいた・・・何かいた・・・!)
一体、どのように対応すべきなのだろう。
かぼちゃを頭に被り、黒マントを着込んだ怪しい奴とマトモな会話ができるのだろうか。
コンコンッ
ヘンゼルの背中に、ノックの振動が伝わってきた。
(どうしよう・・・開けていいのかな)
しばし悩み、細くドアを開けてみる。





目が合った。




驚きのあまり再びドアを閉めようとしたが、突如伸びてきた手に阻まれた。
「とっとと開けろ。」
邪悪なオーラがみなぎる声で言われヘンゼルは一瞬ひるんだが、それでもドアノブを持つ手を放しはしなかった。
(開けちゃいけない、開けちゃいけない、こんな変態を中に入れちゃいけない!)
物凄く失礼
だが、至極当然の反応だろう。
ジャック・オー・ランタンを頭に被った何かもそれを察したのか、ふっとドアをこじ開けようとする力を緩めた。
(・・・?)
つられてヘンゼルがドアノブを引っ張る力を緩めた途端、ドアは大破した。

ドガァァァンッ!

「うわぁぁぁっ!?」
「何だ!?」
「どうしたんですか!?」
とっさに飛び出してきたギルバートとフローラもまた、その怪しすぎる人物と目が合ってしまった。
「「・・・・・・」」
「・・・・・・」
無言で威嚇しあうギルバート&フローラと不審者。ちっともひるまないあたりが素晴らしい。
やがて、どんな無言のやりとりがあったかは知らないが不審者の方が降伏(?)した。
「俺の負けか。お前ら、面白ぇな」
そう言って彼は、それまで被っていたジャック・オー・ランタンを脱いだ。
「・・・・え」

「TRICK or TREAT?」

にっこりと笑う彼を見て、ヘンゼル達は目を丸くした。



男は、ひどくライに似ていたのだ。











―――数分後。
男は家の中でお菓子を貪り食っていた。
自ら「俺の名はトム。職業はドッペルゲンガーだ」と、どこまでもうさんくさい自己紹介をした彼を、ヘンゼル達は 遠巻きに見守っている。
一番居心地が悪いのはライだろう。自分とそっくりな顔をした男がにこやかに笑ったのを見た時の表情が、ありありとそれを物語っていた。
「・・・それで、聞きたいんだけど」
「ぅん?」
自称トムは顔を上げ、質問を投げかけてきたリュオンを見た。
「僕らに何の用があって来たの?」
THE・直球勝負☆

「?だって、今日はハロウィーンだろ?
微妙にズレている。
「どういう関係があるんですか?」
「ハロウィーンの日は他人の家にも自由に入っていいって言うだろ」
「言わない言わない」
それでこの家に侵入してきたのだろうか。
「言わねぇのか・・・騙された」
そのわりにショックを受けてはいなさそうである。
「このパイうめぇな」
「喰うな。今すぐ出て行け」
「何だよ、心が狭ぇな」
そういう問題ではないと思う。
「他人の家に上がりこんできて勝手にお菓子を貪り食ってるあんたがどうかと思うわ」
マイシェルの言う事ももっともである。
「何でだよ?しっかり『TRICK or TREAT?』って言ったぞ俺」
「それを言えばお菓子を喰えるってもんじゃねぇ」
この男、どうもハロウィーンについて間違った知識しか持っていないらしい。
きちんとした常識を持っているかどうかも怪しいところだ。
と、そこで再びノックの音が聞こえてきた。

コンコンッ

「あれ?」
「・・・ドア、ないはずなんだけど・・・」
そう。玄関のドアは先程トムによってブチ壊されたままであるため、ノックの音など聞こえるはずはないのだ。
「でも、ノックの音だったな」

コンコンッ

「やっぱり、ノックの音ですね」
「試しに『どうぞ』って言ってみる?」
「やめてくれ」
その言葉にトムを見てみると、彼は真っ青な顔をして耳を塞いでいた。
「何で?」
「訊くな。あいつが来る・・・!」
そうこうしているうちに、その何者かは家内に侵入してきたらしい。
ギィッ、と廊下が軋む音がする。
フローラとギルバートは静かに身構え、リュオンとヘンゼル、グレーテルも呪文を唱えられるよう精神を集中させる。
ギィ、ギィと廊下の床板を軋ませながら侵入者がキッチンに近づいてくる。
「来るぞ」
ギルバートが短く警告する。
途端、ふっ、と黒い影が姿を現す!

コンコンッ

「・・・あ?」
侵入者の正体は、何と言うか、変人だった。
自分でノックの音用の板切れを持ち歩いている男を、変人以外のなんと呼ぶべきか。
しかし、それを除けば彼は普通だ。比較対象がトムだけに、余計に普通さが際立つ。
「同じ侵入者でも、色々いるんですねぇ」
フローラの台詞が、最も的を射ているだろう。
「くっ、クロろん・・・」
怯えたようにトムは顔を上げ、びっ!とクロろん(仮名)を指差して叫んだ。
「何でお前がここにいるんだよ!?」
「それはこっちの台詞だ。そしてそのふざけた呼び名で俺を呼ぶな」
クロろん(仮名)は怒ったようにトムの首根っこを掴み、外に引きずり出すべく歩き出した。
「机の上で雪崩を起こした書類を放り出して遊び呆けているとはいい度胸だな。今日こそはきっちり片付けてもらおう」
「い、痛っ!いてててて、放せ!放してくれ!」
ドサッ
本当に放した。
「っ〜〜〜〜〜〜〜〜!?」
モロに背中を打ちつけた痛みにのたうち回るトムをよそに、クロろん(仮名)はヘンゼル達のほうに向き直った。
「この男が迷惑をかけたようだな。何の足しにもならんだろうが、こいつが喰った分だけは元に戻しておこう」
そう言って彼がテーブルの上で手をかざすと、一瞬でトムが食べた分だけお菓子が増えた。
「・・・それ、魔法?」
さすがに『ゴルドニア最高にして最強の魔術師』と謳われただけあって気になるのだろう、リュオンが訊ねる。
「いや。だが、こちらではそう呼ぶのが一番適切だろう」
軽く口の端を持ち上げ、クロろん(仮名)は言った。
「俺の名はクロノス。こっちはシヴァ。また、いつか世話になるかもしれん。その時は、よろしく頼む」
そう言って、彼らは姿を消した。
クロろん改めクロノスの言葉に、唐突にヘンゼルは思い出す。
「シヴァ?・・・・・・あ、冷蔵庫に日記入れた神様だ!」
「神様か。ってことは職業はドッペルゲンガーっつー自己紹介は嘘だったわけだな」
「信じてたのか?」
だとしたら結構恥ずかしい。
「・・・結局、何だったんだろ?あれ・・・・・・」
ヘンゼルの当たり前な疑問など意に介した様子は微塵もなく、他のメンバーは何事もなかったかのようにパーティを再開している。
「お兄ちゃん、細かい事を気にしてると胃に穴が開くか、ハゲるわよ」
その言葉を聞いて、ヘンゼルも気にするのをやめた。やはりハゲるのは嫌だ。

ハロウィーンの怪現象。それで納得しておこう。




***





翌日、天界では必死になって仕事を片付けるシヴァと、それを見張るクロノスの姿が見られた。
「よっぽど仕事が溜まってたんでしょうね」
「この間シヴァの部屋に入ったら、机一杯に書類が詰まれてんの見たわよ?私」
「あれが四大神なんだから、世も末だぜ」
「自分の上司があれだと思うと、泣けてくる・・・」
シヴァの同僚であるアビス、エアリィ、ガイア、オニクスたちは口々に言い合った。
「とはいえ、人間界のハロウィーンって面白そうよね。あたしも来年行ってみようかしら」
「昨日、シヴァが行ってきた家ですか?」
「そうそう。だってハロウィーンじゃなくても面白そうじゃない?きっと毎日がコントよ」
「すっげぇ失礼じゃねぇか・・・?」
「あんたたちも人間界の楽しさを知りなさいよ。探せばもっと面白いところはあるのよ?」
「シヴァの面倒を見なくて済むようになったら、行ってみる」
「駄目ですよオニクス。それじゃ永遠に行けません」
何気にひどい。
「でも、まぁ・・・行ってみたくはあるな」
空を見上げながらガイアは呟いた。







これからはもっと大変なことになりそうだ。ハゲるなヘンゼル。

「不吉な事言わないでよ!」


END




後記

まずはお詫び。
しょっぱなから下ネタですいません。
本当は、
「ライ、あんたいい体してるわねー
「どこ見てやがるテメェ!?」
「何を恥ずかしがっているんですか?まるで乙女のようですね
(正気に戻ってよフローラ!)

というやりとりになるはずだったのですが、受け取りようによってはこちらのほうが下品な気がしたのでやめました。
どっちも同じだとか言わないでやってください(涙)
そして締め切り(10月31日)過ぎて書き上げたのに、しょっぼい上に意味不明なモノしかできなくてすいません。
こんな話じゃ訳分からんぜよ!(何弁だ?)
ちなみに、焼きそばメンバーの仮装はイラストと連動してます。文中の「冷蔵庫に日記入れた神様」というのはキャラ日記に書いてありま すな。そういう遊びが出来た点ではお気に入りなんですが(蹴)
嗚呼、文才が欲しい(切実)

up date 2003.11.03



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