無題(アリス・イン・ワンダーランド) 「あ〜もう、今日もサイッアクな一日だったわね・・・」 がしがしと頭を掻きながら、柳川雪穂は毒づいた。 夕暮れの教室で、彼女が一人何をしているかと言えば、・・・喫煙。 火災報知器を鳴らさぬよう窓の外に身を乗り出し、彼女は煙草を吸っていた。教室で、とは堂々としたものである。 これが雪穂の、唯一の楽しみ。 勉強も友達付き合いも大嫌い。部活もやっていない。目指す夢があるわけでもなく、それでも高校に通っているのは、中卒だと就職に不 利だから。――――――クソつまらない人生だと、自分でも思う。 茶髪もピアスもちょっとした反抗の証。けれど、そんなことをしても何も楽しくない。残るのはただ虚無感のみ。 毎日が楽しい、と公言して憚らない奴らの心情が、雪穂には理解できなかった。 こんな人生のどこが楽しい。面白いものなんて何もないのに。 思い切り煙を吸い込んで吐き出すと、自身の中に溜まったもやもやも、煙とともに出ていくような気がした。 (・・・あれ) 視界の隅に何か白いものが横切ったような気がして、雪穂は地面に目をやった。 確かにそれはいた。大きさといい跳ねるような動きといい、あれはうさぎだろうか? (なんで、こんなとこにうさぎなんか?) 思ってみていると、今度はそれを追いかけて黒服の男が走ってきた。 チョッキに燕尾服にシルクハット。どれも現代日本には不釣合いだ。 (『不思議の国のアリス』ごっこ。なワケないか) ぼんやりと彼女はその光景を目で追いかけている。―――――と、男が上を見た。 雪穂と目が合う。 男は笑い、雪穂に向かってお辞儀する。そして再びうさぎを追いはじめた。 (何、あれ) しばし呆然として、雪穂は固まっていた。 くわえたタバコの火が唇に近づいてきた熱で、ゆっくりと我に返る。 「気のせい・・・よね?あんなの・・・」 自分に言い聞かせるように呟き、窓枠でタバコの火をもみ消して振り向く。 「失礼ですが、レディ」 先程の男がそこに立っていた。 いつの間にここまで来ていたのだろう。その左腕には、白うさぎがしっかり抱きかかえられていた。 そんなに長い間、自分は呆然としていただろうか? 驚きに何も言えない雪穂に、男はまた笑う。目深に被られたシルクハットのせいで、その目許は窺い知れない。男の手からうさぎが離れた。 「貴女をパーティに招待いたしましょう、レディ・ユキホ。きっと楽しめますよ」 意外に流暢な日本語で、彼は雪穂に手を差し伸べた。手袋の白さがやけに印象深い。 無意識のうち、雪穂もまた手を伸ばしていた。危険だとかおかしいだとか、そんな事は頭になかった。彼の手を取る事しか頭になかった。 雪穂の指先が彼の手に触れた途端、ぐにゃりと世界が歪んだ。 ぐるぅんと渦を巻いて教室の風景が溶けてゆく。彼女の意識もまた溶ける。 「そこにおいて貴女はなきもの。なきものを知るものをお探しなさい」 それが、意識の最後。 気付くと雪穂は砂浜にいた。 「・・・どこよ、ここ・・・」 不安に駆られて雪穂は呟いた。やはり、あんな怪しい男の手をとるんじゃなかった。 教室どころか学校の付近ですらないのは一目瞭然、日本であるかどうかも怪しい。 あいつの仕業なのだろうか。 辺りを見回すと、岩場の上に一匹の白ウサギがいるのが目に入った。 (もしかして、あいつの抱えてたうさぎ?) アリスはうさぎを追って不思議の国を旅した。ならば、あれを捕まえれば何か分かるかもしれない。そう考えた雪穂は岩場へと向かった。 ある程度近づいたところで、ウサギが何をしているのかが分かった。鮫を並べてその上を渡ろうとしているのだ。 (ってことはこれ・・・『因幡の白兎』・・・!?) 雪穂は頬を引きつらせた。あれは日本神話に出てくる話だったはず。 自分は一体、どこに来てしまったのだろう? 「んー?誰だい、そこにいるのは?」 ――――――ウサギに話しかけられた。 これは夢だと思いたい。しかし、ほてほてと近寄ってきたウサギの、その口が動いて言葉が発されたのを見てしまってはどうしようもない。 「人間さんかい?どうした、こんなとこで。気分でも悪いのかい?」 雪穂は首を横に振った。するとウサギは笑ったようだった。 「そんなら良かった。・・・なぁ、おいらと一緒に海の向こうまで行かないかい?」 海の向こう、とウサギが顎で示した先には、遠く島影が霞んで見えた。 「あそこに、行くの?」 「そうさ!――――――おーいワニどん、この子もおいらと一緒に数えてくれるってよぅ!」 止める間もなくウサギは鮫に向かってそう告げてしまい、雪穂はウサギと一緒に行かざるを得なくなってしまった。 (数えるって・・・そっか、うさぎは『鮫の頭数を数えてやる』って騙して、島まで渡るんだったわ・・・) ぼんやりと考えながら、雪穂はウサギに続いて鮫の頭の上に乗った。そのまま勢いをつけてぽんぽんと渡っていく。 ずらりと並んだ鮫の頭上を渡りながら、ふと思いついて雪穂はウサギに訊いてみた。 「ねぇ、あなたは『なきものを知るもの』?」 ウサギは雪穂を見やり、すぅっと目を細めた。どうやら微笑んでいるらしかった。 「残念だけど、違うよ。おいらは『なきものを聞くもの』。探すなら別のところに行くんだね」 「別のところ?」 言った途端に雪穂は足を踏み外し、海中に落ちてしまった。海水が目にしみる。 濡れた服がまとわりついて上手く動けない。このままでは沈むばかりだ。 (私、死ぬのかな・・・) ゆらゆらと沈んでいく。目を開けばさぞかし綺麗な青が広がっていることだろうが、そんな事をしたら皮を剥がれたウサギの如く、海水がしみる痛みに呻く事になるだけだろう。 身体とともに意識も沈む。 彼女の身を抱える何者かがあったようだが、確かめることはできなかった。 次に目覚めた時は船の甲板に転がされていた。 「お。目覚めたか」 パノラマで広がる見知らぬ男性の顔に硬直していると、彼は背後に向けて声を張り上げた。 「おぉい、ヘラクレス!お前の助けた娘、目を覚ましたぞ!」 「ヘ、ヘラクレス?」 雪穂は半身を起こしかけ、そのあまりに有名な人物の名を聞いて硬直した。 ヘラクレスと言えば、ギリシャ神話の英雄ではないか。 (また神話の世界なの・・・!?) 先程の『因幡の白兎』に続き、この空間軸も時間軸も無視した移動は何なのだろう。 これもやはり、あの男のせいなのだろうか。だとしたら、こんなことができるあいつは何者なのか。 それを考えると頭が痛くなってきた。 「頭痛か?娘よ」 問いかけてきた男の声に、雪穂は首を横に振った。これは精神的な頭痛だ、言ったところで治療はできまい。 そんな彼女の横顔を、いつの間にか歩み寄ってきていたヘラクレスが興味深げに覗き込んでいた。 びくりとして身をこわばらせると、彼は安堵させるように雪穂の頭を軽く叩いた。 「案ずる事はない。ただの人間に手出しするほど、俺たちは粗野ではないから」 その掌の優しさに、雪穂は小さく頷いた。 それを確認してから、ヘラクレスは彼を呼んだ男に視線を転じた。 「で、アスクレピオス。この娘に怪我は?」 「ないようだ。単に溺れていただけのようだな」 耳慣れない名の男。そんなことを訊ねられるところからして、彼は医者なのだろう。 「やはり人間なのか」 「そこまでは私にも分からん。本人に聞いてみろ」 「私は人間よ!」 化け物かと疑われていると知って雪穂は思わず声を荒げたが、ヘラクレスもアスクレピオスも、きょとんとした顔で見返すだけだった。 「今の言葉、聞き取れたか?アスクレピオス」 「いや。近辺の人間ではないからか・・・それとも、やはり魔性のものなのか」 「だーかーらッ!私は人間だってばっ!」 雪穂が言い重ねるにつれて、彼らの表情は次第に困惑の色が濃くなっていく。何度か不毛な言葉のやり取りを繰り返してようやく、どうや ら雪穂は「相手の言語を聞き取れても話せない」状態にあるのだということに気が付いた。 「・・・俺たちにお前の言葉は分からなくとも、お前は俺たちの言葉を理解しているのだろう?」 雪穂は頷く。そこさえ分かっていれば、何とか意思の疎通はできそうだった。 雪穂が身振り交えて状況説明を求めたのをどうにか理解してくれたらしく、ヘラクレスは言った。 「この船はアルゴ号。黄金の羊皮を手に入れるため、イアソンという男の指揮の下、この先にあるコルキスという国を目指している」 この先、とヘラクレスは水平線上の一点を指差す。と、ふいに彼は眉をひそめた。雪穂もそちらを見たが、そこにはただ水鳥がとまる岩があるばかり。 見る見るうちに剣呑な雰囲気を纏いだしたヘラクレスに、アスクレピオスが尋ねる。 「何かあったのか」 「・・・セイレーンだ」 ヘラクレスが返したただ一言のそれで彼は全てを理解したらしく、他の乗組員達に警告すべく身を翻した。 やがて雪穂にもヘラクレスが示したものの正体が分かった。水鳥の体に女性の顔。 魔物だ。岩にとまる水鳥を、彼はセイレーンと呼んだのだ。 セイレーンというと、歌声で船乗りを魅了し、船を沈める魔物だったか。だとしたら、この船は危ない。 「セイレーンが出た、ってのは本当かい?ヘラクレス」 「どうするんだ?」 ひょこ、とよく似た容貌を持つ二人の青年が船室から顔を出す。 「あぁ、カストル、ポルックス。今、アスクレピオスがオルフェウスを呼びにいったところだ」 「オルフェウスを?」 双子のどちらかが面白そうに呟いた。 「音楽で対決、ってわけだ」 真実そうらしく、やがてアスクレピオスとともに船室から出てきたオルフェウスは、竪琴を持っていた。 彼が甲板の縁に立って竪琴を演奏し始めると、天上の音楽かと思えるほどに美しい音色が大気を震わす。そのあまりの美しさに、船員達の みならずセイレーンまでもが聞き惚れてしまっていた。 無意識のうちに、雪穂はオルフェウスに問うていた。 「あなたは『なきものを知るもの』?」 「いいや」 竪琴を奏でる手を止めることなく、彼は答えた。 「私達は『なきものを見るもの』。探すなら他を当たりなさい」 「他、を・・・?」 竪琴の音を聴くにつれ、だんだんとまぶたが重くなってくる。まただ、と雪穂は思ったが止められない。 意識が遠ざかる。 海に空に響く、麗しき竪琴の音――――――・・・・・・ 笛の音。 ただそれだけが、覚醒した雪穂の意識に飛び込んできた。一瞬遅れて、どこか小部屋の天井が視界に広がる。 「今度は、どこよ・・・」 呟きながら、雪穂は体を起こす。それで今までくるまれていたのが清潔な布団だったと知った。 ということは、ここは日本か。 それを証明するかのごとく、畳と障子とが目に入った。見ていた障子が開かれる。 「あぁ、起きましたね。雪穂殿」 入ってきたのは、白皙の美貌も麗しい、一人の青年だった。 彼は颯爽たる足さばきで雪穂の横へと歩み寄り、そこに腰を下ろした。懐に笛が入れられているところを見ると、先程の音は彼が奏でていたのだろう。 「黒衣の男に、飛ばされましたね」 唐突にそう言われ、雪穂は目を丸くした。なぜ知っているのだろう。 疑問が顔に出ていたのだろうか、雪穂の様子を見て青年は微笑んだ。 「私は『なきものを知るもの』、――――――安部晴明と申す者」 「安部・・・・・・!?」 あまりのことに、雪穂は絶句した。本当に時空を無視した行程だ。 「歩けますね?」 「あ、はい」 「ならば、歩きながら説明致しましょう」 言うなり彼は立ち上がり、踵を返した。慌てて雪穂もそれに続く。 「あの者は、どうもそういった遊びが好きなようで」 縁側を歩きながら、晴明は口を開いた。 「時折、貴女のように『飛ばされ』てくる方があるのです。それで私も、彼の存在を知りました」 「はぁ」とも「ふぅん」ともつかない声で雪穂は応じた。失礼だとは分かっているが、ここにある全てが目新しくて、それどころではなかったのだ。 晴明もそれを知ってか、軽く苦笑するのみにとどまった。 「その花の種、差し上げましょうか」 雪穂の見ていた庭の花をちらりと見やり、晴明は言った。 彼女が頷くと、彼は懐から小さな巾着を取り出した。まるで、こうなるとあらかじめ知っていたかのように。 「どうぞ」 雪穂の掌にそれを乗せ、晴明は微笑む。 「勿忘草(わすれなぐさ)です。このことをお忘れなきよう」 どういう意味、と訊くより早く、晴明が「そこの段差に気をつけて」と注意を促したため、訊ねる機会を逸してしまった。そのまま黙っているより他になくなる。 小さな階段を下りて晴明の家を出る。振り返ってみると、そこは意外に小さな庵だった。否、森の中にそれが立っている風景は、晴明の印象と似ているか。 「鎮守の森です。ここは随分と都合がいいので」 森の中にきらりと輝く何対もの獣の瞳を見つけ、雪穂も納得した。晴明は狐と関わりが深いとされていたはず、とするとあれがそうなのだ ろう。なるほど、鎮守の森であれば狐も住みやすそうだ。 「さて、行きましょうか」 そして晴明は歩みを速めた。 向かった先は、京の市街。こんなところに来て平気なのかと雪穂は危惧したが、どうも周囲の人々には彼女の姿が見えていないようだった。 それを訊ねると、晴明は平然と答えた。 「名を知らぬものに、なきものたる貴女は見えぬのです」 「名を、知らぬもの」 おうむ返しに雪穂は呟く。それは何だか不思議な響きをもって聞こえた。 「そうです。聞くものはなきものを見ることができず、音によって知るのみ。見るものはなきものの声を理解できず、目によって知るのみ。 知らぬものには何も見えず聞こえず、知るものにはどちらもできる」 ああ、と雪穂は思った。そういえばウサギは雪穂が人間だと分からなかったようだし、ヘラクレス達は雪穂の言葉を理解できていなかった。 そういうことなのだろう。 「だからあなたには、私を見ることも、私の声を理解することもできるのね」 「ええ」 彼はまた笑んだようだったが、前を向いたままなのでよく分からなかった。 「――――――着きましたよ」 そう言って晴明が指した先は、ただの袋小路だった。当然、その先は何もない。 「行きなさい」 彼の意図が理解できないままに、雪穂はそれに従った。袋小路の入り口を通せんぼするように晴明が塞ぐ。 「走りなさい。そうすれば、貴女は元いた場所へと戻れる。袋小路はなきところ、無はすなわち有に繋がる」 「でも・・・」 「走りなさい」 有無を言わさぬその声に押され、雪穂は意を決した。壁に向かって走り出す。 壁にぶつかる直前、足元を白いものが駆け抜けたような気がした。 夕暮れの教室に雪穂はいた。 あれから数瞬も経っていないかのようだった。目の前にはうさぎを抱えた黒服の男。チョッキもシルクハットも白い手袋も、相変わらずだ。彼は笑んでいた。 「どうでしたか、パーティは」 至極楽しげな様子で彼は訊いてきた。雪穂は答える。 「楽しかったわ。――――――とっても、ね」 「それは良かった」 雪穂の言葉に含まれた僅かな皮肉に気付いていないのか、満足げに彼は笑った。そしてもう一つ訊ねる。 「勿忘草の花言葉をご存知で?」 彼女は首を横に振った。どこかで聞いたような気もするが、そんなものは忘れた。 だから、男の答えを聞いて、心臓が飛び跳ねた。 「『私を忘れないで』、そして『記憶』。これが勿忘草の花言葉ですよ」 耳の奥に晴明の言葉が蘇る。「このことをお忘れなきよう」。彼はそう言っていた。 そういうことだったのか。 「この出来事を忘れるな」と、彼はそう言っていたのか。 うさぎを抱えていない方の手でシルクハットを目深に被り直し、男は口を開く。 「忘れちゃいけませんよ?世界には、まだまだ面白いことが満ち溢れてるということを。――――――それをよく覚えておいてくださいね、レディ」 確かにそうだ。あんなに面白い体験は初めてだった。 どこの本にも、因幡の白兎やギリシャ神話や安部晴明伝説に「一介の女子高生が関わっていた」などと記されてはいないだろう。けれど 雪穂は知っている。ウサギが憧れた島影の美しさを。アルゴ号の船員達が持つ、好奇心に満ちた目を。オルフェウスの奏でる竪琴の音を。 晴明が住む鎮守の森の、その空気の清廉さを。 そして、彼女の他は誰も知らない。 「何かを知るってことがこんなに楽しいなんて、全然知らなかったわ」 「なら、いいでしょう。貴女は今、その楽しみを知ったのですから」 男の声を聞きながら、雪穂は考えていた。なきもの・聞くもの・見るもの・知るもの・知らぬもの。ならば。 「あなたはナニモノ?」 聞くなり男は声を上げて笑った。予想しなかった反応に、雪穂は呆然と男を見た。 「ククッ・・・まさかそこまで思い至るとは!貴女は想像以上に素晴らしい」 そして男はシルクハットを持ち上げ、雪穂と視線を交えた。男の髪は深奥の闇を思わす夜色、瞳はうさぎのように赤い。その目を片方軽く 閉じ、彼は雪穂に礼をする。 「私は『名を持たぬもの』。そして我が相棒は『名を持つもの』というのです」 私の名を聞いたのは、貴女が初めてですよ。そう彼は笑った。 「また『つまらない』と思うことがあったら私をお呼びください、レディ」 名を持たぬものはまた礼をし、シルクハットを被りなおした。 彼を見る雪穂の目前で名を持たぬものの姿は揺らぎ、――――――そして、消えた。 全く、何という一日だろう。まるで夢の中にいたかのようだ。 しかし彼女の掌中にある巾着袋が、あれは夢ではなかったと告げていた。 家に帰ったら、この種をまこう。今日の出来事を忘れぬように。 また「つまらない」と思うことがあったら。名を持たぬものはそう言ったが、それは当分先の事になりそうだ。今はもう、興味の向く先が 多すぎてたまらない。 「世の中、まだまだ捨てたもんじゃないわね」 言いつつ彼女はピアスを外し、鞄の中からタバコの箱を掴みだした。 その二つをまとめて持ち、窓の外に全力で投げ捨てた。もう、あれらはいらない。 今までずっと見過ごしていた。 本当に、世界にはまだまだ面白いことが満ち溢れている。 名を持たぬものを探し出すため、世界を回るのも面白いかもしれない。彼以上に面白いものなど、きっと存在しないだろうから。 そして見つけた彼に言ってやるのだ。 「おかげで毎日が楽しくてしょうがないわ」と。 名を持たぬものが自分から雪穂の元に来る日は、遠い。だから彼女が向かうのだ。 アリスはうさぎを追いかけた。同じようにして雪穂はうさぎを抱えた男を追う。 どこへでも行く彼を追いかけ、どこまでも雪穂は行くだろう。 「あなたをパーティに招待しましょう」 そう言って笑う、彼を捕まえるため。 「見てなさい。絶対、あんたを見つけてやるんだから」 ――――――窓の外を見る雪穂の背後で、誰かがククッと笑った気がした。 fin. 部誌の原稿第四弾、書き殴りといっていいほど突発的に書いたシロモノ。 うーん、当初私が予定していたのは「女子高生が時空を飛び越え阿部晴明と会う」ってところだけだったのですが。(マジかよ) いつの間にこんなことになっちまったんでしょうかねえ?因幡の白兎やらアルゴナウタイやら(聞くなよ) 小説書くのと同じくらい、資料検索に時間を費やしてしまいましたし。 また、この話はお笑いのつもりで書いたんじゃないにも拘らず笑われたという屈辱的な過去を持つ作品でもあります。 むー。本当にお笑いのつもりで書いたならもっと凄いことになってるって!(おい) まあ、題材にアリスを選んだあたりでお笑いになるのは確実だったような気もしますが。書いた短編がアレですし。(遠い目) ちなみに「名を持たぬもの」さんは、ギャラリーの表紙にいらっしゃる彼がモデルだったりします。 書いてて自分で「こいつ男だったんだー」と思っちまいました。作中で本人が明言してるわけじゃないんで、どっちでも良さげですけど ね(いい加減) やはり構想は最初にしっかり練っとくべきだと思い知った一品。 up date 04.06.13. |
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