とある海の底に人魚がいた。 ・・・アバウトすぎ?うるせぇな、ごちゃごちゃしてて分かりにくいよかマシだろ。 とにかく、その半魚どもは幸せに暮らしていた、と。知らぬは本人ばかりなりってこたぁねぇのか? それで・・・と。(カンペを見つつ)そろそろ三姉妹の真ん中が15歳の誕生日を迎えるらしい。人魚ってのは15歳になると海上に出ても いいってことになってんだと。 ってこたぁ15禁か? 「海の上って、どんなところなんでしょうねぇ」 「そんなところだよ。」 訳分かんねぇよ。 そんな会話をしつつ、人魚姫は誕生日を心待ちにしてた。 っていうかおい、ちっと待て。他の奴は姫じゃねぇのか?姉妹なんだろ?それとも差別か。童話を使って子供に身分差別 を教え込もうって魂胆か。俺は断じて反対だ。こんな奴は半魚で十分だ。 あぁ?余計なお世話だ?っち、だったら妥協策。全員に『姫』を付ける。それでいいだろ。 ったく、いちいち注文付けやがって。 で?あぁ。人魚姫(次女)の誕生日か。海の上に行くんだな。トビウオの如く。 「それでは、行ってきます」 「行ってらっしゃいゥ」 「お姉さま、気をつけてね?お母さまみたいに猫に食べられたりしないでね?」 「大丈夫ですよ。この私が野良猫ごときに喰われてたまりますか」 そんなマヌケな死に方した奴がいたのか。そして人魚姫(次女)、お前は本当に姫か?ものすげぇ闘志がみなぎってるように見える のは俺だけか? ・・・気にせんでおこう。俺は何も見ていない。(自己暗示) そうやって海の上に向かっていくと、そこには大きな船が浮かんでいた。 むしろ船団か?この規模は。 そういや今日は、どこぞの国の王子が海上パーティやるとか言ってたか。 で、肝心の姫人魚、違った、人魚姫。まぁどっちでも変わらんが、とにかくあいつはどこだ? ・・・あー、あれか?あの魚影。 ん、間違いねぇ。あれだ。 それでこの姫人魚は何をしてるんだ。 船の上を見てるのか?・・・ああ、あの服は王子だな。 「はぁ・・・」 ん?その切なげなため息、その思いつめたような目・・・まさかお前、恋わずら・・・ 「あの馬鹿面の王子が国を統べるだなんて、あの国の将来が心配ですね・・・」 前言撤回。恋わずらいじゃなく国わずらいだった。 俺はお前の将来のほうが心配だ。あらゆる意味で。 「まぁそんなものの心配より、あれらの命のほうが今は危ないんですけどねぇ」 そんなもの?国の将来がそんなもの? それに命って・・・まさか、あれか?あの黒雲。 「嵐の前兆ですね、あれは。まもなくこの海域には暴風雨及び雷警報が、付近の町には波浪注意報が発令されるでしょう」 気象予報士か、お前は。 「海辺の天気について、人魚の右に出る者はおりませんよ。さて、彼らはどうするでしょうね」 傍観する気に満ち満ちてやがるな、こいつ。 !雨だ。・・・風も相当強くなってきてやがる。 あいつらの船、これから碇を上げて帆を張って、なんてやってて間に合うのか? 「無理でしょうね、これからじゃ。――――――あぁ、ほら、帆が折れた」 げっ。 帆が折れるだぁ?どんな強風だよ! 「無理にやろうとするからです。あれじゃあもう戻れないでしょうよ、波も荒れてきましたし」 えっらい冷静だな、お前。その辺が人間と人魚の違いなのか? そりゃあ、海を知り尽くした奴と全然知らねぇ奴とじゃ態度に差が出てくるだろうけどよ。 「――――――あぁ、船が沈む・・・」 転覆か・・・! で、どうする気だよ姫人魚。あいつら全員助けるのか。 「最初にここまで流されてきた方を助けましょう。運もまた才能のうちです」 ちょっと違うんじゃねぇか、それ。 お。来たぞどざえもんが。 「あの馬鹿面した王子ですね」 諦めろ。運もまた才能のうち、だ。 潔くそいつを助けるんだな。でねぇと話も進まねぇし。 「――――――・・・・・・」 嫌そうにため息つくなよ。 「・・・しょうがない、とりあえず適当な海岸まで運んでやりますか」 とか言いつつ髪を掴んで運んでいくのはどうなんだ。ハゲるぞ。 その若さでハゲなんて哀れすぎるからやめてやれ。 「ああ面倒くさい、海岸に着いたら放置しますよ!」 面倒くさいのが理由ってのが納得いかんが、まあいいだろ。幸い嵐も止んだし、死ぬこたぁねぇはずだ。 見えてきたぞ海岸。とりあえずあそこまで連れてってやれば大丈夫・・・ってお前平気か? さすがに女の力で人一人運ぶのは疲れるか。 「お・・・・っもいんだよこのボケがぁっ!」 コラ――――――――――――――――――――!!!!! そんな掛け声とともに王子を投げるな!せめて横たえてやれ! この勢いで行けば海岸まで飛ぶな・・・ってそういう問題でもねぇ!何を冷静に考えてるんだ俺! あぁほら、人に当たっちまったじゃねぇか! 「まずいですね。相手の方、女性じゃないですか」 そりゃやべぇ。だがお前が投げた王子については心配の一つも無しか。 「いったぁ・・・・・・。もう、何よこの水死体!」 そいつはまだ死んでねぇ! そして動揺とかしねぇのか!?人が吹っ飛んできたんだぞ!? 「えーっと。脈は正常ね。呼吸もあるわ。うん、瞳孔も開いてない。ってことは生きてるんじゃない。心配して損したわ」 ちょっと待て、何事もなかったかのように去ろうとするな!助けてやれよ! 「あの、すみませんが、そこのお方」 おぉ姫人魚。いつの間にそこまで海岸に近寄ってたんだ?浜に打ち上げられた魚の如く自力で戻れなくなっても知らんぞ。 ・・・いや、こいつなら戻れるか。こっちの王子ぶつけられた女もいることだしな。 「あら、あなた人魚?どうしたのよこんなとこで」 「少々厄介ごとに巻き込まれてしまいまして。お手数ですが、この馬鹿面の男を助けてやっては頂けないでしょうか?」 お前も良いとこあんじゃねぇか。人命救助を厄介ごと扱いした上、王子を『馬鹿面の男』呼ばわりしてるとはいえ、な。 「この男、これでも王子なんです」 「そうなの?この国の将来が思いやられるわね」 嫌なところで意気投合してるな、こいつら。 「たとえ本物の阿呆だとしても、いないよりはマシだと思うんです」 「そうね。この国の民としては、権力争いで国が荒れるのなんて迷惑極まりないもの。宮廷に賢臣を揃えてやれば、王子が無能でも国としての機能は成り立つでしょうし」 王子の扱い、ものすごく軽いな。 っていうかお前の考え、物凄く危険だぞ。一歩間違えば諸官の反乱により王家滅亡、下克上の戦国時代へまっしぐらなんて事態にも繋がりかねん。 第一、誰が宮廷に賢臣をそろえるってんだ。 「いざとなったらあたしが宮廷にもぐりこんで色々と細工を・・・」 お前、本当に危険な考えの持ち主だな! 「で、いかがでしょう?」 「分かったわ。あんたの言うとおり、この男は助けましょう。ちょっとー、そこの貴人ー!」 お前が助けるんじゃねぇのか!? 「それじゃあ私は、あまり多くの人間に姿を見られるとマズイので」 「帰るの?じゃあ、またいつか会いましょう」 「えぇ。それでは」 ああ、精神的な嵐のもとが一つ去った・・・。 「何だ今のは。でかい魚か?・・・ん?あそこにお倒れになられていらっしゃるのは、もしや・・・」 おう、名も知らぬ貴人。ただ通りがかっただけなのにご苦労。 「お溺れになったのか・・・。貴女が、この御方をお助けに?」 「まあそんな感じかしら」 貴人を呼んだだけだもんな。 「ならば、宮廷へお越しいただけますか?国王より褒賞が下されることでしょう」 「あらそう?じゃあとりあえずビール」 王子の命はビール一本分の価値しかねぇのか。 それはそうと、お前宮廷に行くんだろ?さっき「色々細工する」とか言ってたしな。 あー、俺もこの国の将来が心配になってきたぜ・・・・・・。 「どうしたの?お姉さま。このごろ元気がないわ」 「そういえばきみ、誕生日にどっかの王子を海岸に投げ捨ててきたとか言ってたね。まさか恋わずらい?」 「違います」 だろうな。あれはどっちかと言えば国わずらいだもんな。 「私が心配なのは王子でなく、あの国の行く末です。ああ、あの馬鹿面の王子で本当に大丈夫なんでしょうか・・・」 「そ、それは・・・」 「また凄いことを心配してるね、きみは。僕の妹ながらあっぱれだ」 どこら辺に感心してるんだ?お前。 「まぁそういうことなら、彼に頼むのがいいんじゃないかな。彼だったら、どうにかしてきみを人間にしてくれるはずだよ」 「人間になって、それでどうするんです?」 「決まってるじゃないか。国を乗っ取るのさ!」 ここにも危険人物がいた! 意気揚々とンなこと断言するな! そして姫人魚、お前も目を輝かせない! 「それなら、早速」 「人間にしてもらおう、か?」 何か出た。 誰だよこいつ。海ン中だってのに堂々と二足歩行してやがる。 「誰ですか、あなた」 「通りすがりの魔法使いだ」 「呼んだ覚えはないですが?」 「通りすがりだからな」 「何で海中で二足歩行なんですか」 「そりゃあ俺が魔法使いだからだ」 お前、会話する気あんのか? 「で、お前は人間になりたい、と」 「そうですね」 何で知ってるんだ?聞いてたのか? 「そうしてやってもいいが、ただし国を救えなかったらお前、泡になって消えるから覚悟しろ」 重っ! 欲求に対してめちゃくちゃ重いじゃねぇか、その対価! 「いい度胸じゃないですか。受けてたちましょう」 それでいいのか!? 「よく言った。じゃあ、これを飲め」 これを飲め、って・・・・・・お前、こりゃコンソメスープじゃねぇか?色といい、においといい。 「効くんですか?これ」 全くだ。 「効くに決まってるだろ。疑うのか」 「少なくとも信じてはいませんね」 だったら飲むなお前! しかもいい飲みっぷりじゃねぇか、こいつ・・・! さぁ、これでどうなるんだ? 「・・・・・・・」 「・・・・・・・・・・・・・・・」 「あんた、あの時の人魚よね?」 「ええ。今は尾ひれの変わりに足がついていたりなんぞしてますが、間違いはありませんよ」 「そう。じゃあ何で全裸のあんたがあたしのベッドに横たわってるのかしら。あたしは女に夜這いかけられる趣味はないんだけど」 「そんな趣味があったら、それはそれで困りますね」 まあな。 「で、何でなのよ?」 「ちょっと厄介ごとに巻き込まれまして」 またかよ。 「どこぞの胡散臭げな魔法使いに飛ばされたようですよ」 「あぁ、そうだったの」 お前、何でそんな冷静なんだ? 「とりあえずはこれでも着なさい。着終わったら状況報告会といきましょう」 「別に着替えながらでもいいですよ。とりあえず、ここはどこです?」 「ここはクラムネッドの――――――あの馬鹿面した王子がいる国の王宮よ。あたしはここで暮らすことになったの」 「おや、そうなんですか。よかったですね」 「よかないわよ。だって王子のフィアンセとしているんだもの」 フィアンセ!?お前が!? 「ほら、あの時あたし、そこを歩いてた貴人を呼んだでしょ?あいつに『あんたが彼を助けたのか』って聞かれて、本当のこと言うわけにも いかないから、つい肯定するようなこと言っちゃったのよね」 「『人魚が助けた』なんて言うわけにもいきませんから、それは当然の事でしょう」 まあな。ンな事言ってもどうせ信じちゃもらえんだろうし。 「で、そいつが結構な重役だったらしくて、国王に直接それを言ったらしいのよ。その直後に謁見があって、それで国王夫妻に気に入られた らしくって、『王子を助けてくれた恩もあることだし、ここは一つ彼の結婚相手に』って・・・」 「・・・それで、フィアンセにされてしまった、と?」 「そう」 そんな地獄の底から湧き出すような声を出すなよ。気持ちは分かるが。 そりゃ「結婚は人生の墓場」とは言うが、相手が奴じゃああんまりだよなぁ。 「何とか失望させようとして未来の王妃にふさわしくない数々の破壊行動を起こしてみたりしたんだけど、逆に『威勢のいいお嬢さんだ』 とかって、ますます気に入られちゃったのよ」 「当の本人はどうなんです?」 「あの馬鹿王子?あいつが『威勢のいいお嬢さんだ』って言ったのよ」 何かもう絶望的だな。 「気付けば大臣やら何やらもあたしを見れば道をあけるほどになっちゃってるし、めぼしい反対勢力もないし・・・!」 大臣達も道を譲る、って何したんだお前? 「ねぇ、あんたも王子の結婚相手に立候補しない!?」 「全力でお断りします。」 早。断言しやがったな。 「王子と結婚すれば、金も権力も使いたい放題よ?」 「興味ないです」 「私は興味あるけど、アレと結婚だけは嫌なのよ・・・!」 そうだな、世継ぎの問題とかあるしな。 「だったら結婚したと見せかけて、後々こっそり暗殺処分なんてどうでしょう?」 ここにも危険人物がいたか。 確かにそりゃ、わりと常套手段だがな。 「暗殺・・・。いいわねそれ」 よくねぇ! 「では、この問題はこれで解決。私の方の状況をお話ししても?」 「どうぞ」 「魔法使いにこの足を貰いまして。『国を救えなかったらお前は泡となって消える』だそうです。以上」 それだけか!? 「国を救えなかったら、ね・・・。あんた、あたしと手を結ぶ気はない?」 「ありますよ」 「じゃあ決定ね。二人でこの国を改革しましょう」 「そうですね」 世にも恐ろしい国ができちまう気がしてならんのは俺だけか。 「おう、マイシェル。誰だそいつ?」 「この子?今日からあたしの侍女になった新入り。ほら、挨拶」 「お初にお目にかかります、殿下。フローラと申します」 「そうか、フローラってのか。頑張れよ」 お。意外と普通の応対だな。 「噂に聞いてたほどの馬鹿者じゃありませんね」 「そう?でも、教師どもからの評判は最低よ?勉強も駄目、運動神経も最悪。礼儀はまるでなってない、常識外れもいいところ。 毎日毎日ドレス贈ってくるから何かと思えば、昨日贈ったってのを忘れてまた贈る、ってのを繰り返してるだけみたいだし」 それは痴呆症じゃねぇのか? っていうか、小声とはいえ王子の悪口言っても平気なのかよ。 ・・・あぁ。大臣達も道をあけるほどだったか、こいつの権威は。 「それでも、未だにあたしとあいつの結婚に反対してる奴はいるのよ?反対候補を掲げちゃいないけど、あいつに王位を継がせたくない、 って考えてる奴は多いわ。結婚を機に王位継承するって話だから」 なるほどな。でも、式はそろそろなんだろ? そこまでこぎつけちまえば、反対勢力だって消えてくんじゃねぇか? 「・・・ここに来てからかき集めた情報の中に、『結婚式の日に決起して、王子を暗殺する』っていうのがあったの。さすがにそうなったら、 国を救うどころじゃないでしょ?」 「それは・・・そうですね」 「だから、式の日はくれぐれも注意すること。暴動に巻き込まれたりしたら、それこそ水の泡よ」 「えぇ」 「――――――マイシェルさま」 「あら、ヘンゼル。ちょうどいいとこに来たわね」 何だ?そいつ。さっき王子といっしょにいたガキじゃねぇか。 「紹介しとくわ、フローラ。この子はヘンゼル、王子付の侍従。見ての通り子供だけど、賢いの。あたしの貴重な情報源」 なるほど。子供ってのを利用して、相手を油断させて情報を引き出すのか。そりゃ確かに貴重だな。 この歳でンな事やってのけるなんざ、こいつ相当な曲者だな。今は違っても、将来ぜってー曲者になるぞ。 で、何だって? 「式の日取りが早まりました。来月と定められていたのが、来週になるそうです」 「来週!?」 「『国王陛下の体調が優れないから』というのが理由とされていますが、それが真実か否か、もし嘘だった場合の目的が何なのかは、まだ」 「陛下はお年を召しておられるから、その理由は不自然じゃないけど・・・。それにしたって早すぎるわ」 「それは誰から聞いたんですか?」 「殿下本人からです。先ほど言い忘れておられたとかで」 「まさかあの馬鹿、まーた勘違いしてるんじゃないでしょうねぇ・・・?」 こらこら、堂々とンなこと呟くな!目の前に王子付の侍従がいるだろ! 「・・・それと、殿下からマイシェルさまへ伝言です。『明日ウェディングドレスを贈るから、式の日にはそれを着ろ』だそうで」 「はぁ?ドレスならあいつと一緒に型の見立てをしたやつがあるじゃないの」 「そ、うなんです、けど・・・殿下が、どうしてもそう伝えろと・・・・・」 ほれ見ろ。やっぱ痴呆症なんだって、あいつ。 毎日ドレス贈ってくんのとおんなじ理由だ。 「―――――とにかく!言うべき事は伝えましたから!」 「えぇ、ありがと」 「・・・私たちも、策を弄するとしましょう」 時間が流れんのは早ぇもんで、もう挙式当日だ。 「衣装は?」 「OK」 「髪は?」 「OK」 「化粧は?」 「OK」 「その他準備は?」 「もちろん万端」 「マイシェルさま、お時間です」 「今行くわ」 いよいよか。王子との結婚&王位継承&反乱(仮)。 これでもし王子の身に何かあれば、姫人魚は泡となって消えちまう上世の中は戦国時代に突入、と。責任重大だな。 段取りは、と。まず新婦入場。次に神父が聖典の文句を読み上げて、新郎新婦が誓いの言葉を交わす。で、指輪交換に締めの杯で終わりか。 わりとあっけねぇな。 今神父が聖典を読み出したとこだから、後はどんくらいだ?、――――――――――っ! 「殿下、お覚悟ぉっ!」 駄目だ刺される! ――――――・・・、ん?あぁ?今、何が起きた? 「やっぱお前だったか、侍従長一派」 おい待て、王子。今こいつ、お前のこと刺そうとしたよな? お前、サーベルでそれ防いでなかったか?運動神経最悪だとか言ってたじゃねぇか! それに顔つきも今までと違って・・・ 「悪いな。俺は、お前ら反対勢力が思ってるほど馬鹿じゃねぇ。礼儀がなってねぇだの非常識だの、それは否定しねぇがな」 「な・・・」 「今までのは全部、演技さ」 「!ならば、何故!」 「決まってる。周りの国を油断させるためさ。世継ぎの王子が馬鹿者であれば、わざわざクラムネッドを危険視して身構える奴らもいねぇからな」 おい・・・。お前、相当な切れ者、もとい曲者だな。 そのためだけに10何年も演技し続けてた、ってぇのか? 「まぁ被害が出たわけでもねぇし、俺みてぇな馬鹿が王位を継ぐってのを心配したのが今回の件の主な理由だろうし。お咎めナシってことで プラスマイナスゼロ。OK?」 「は、はぁ・・・。」 「に、しても」 何だ? やけに愉しげだな、お前。 「俺の花嫁サマとそのお付は、随分と勇ましーこって」 は?・・・ってお前ら!いつの間に短剣だの爆弾だの構えてやがる!? 「ドレスの裾の中に隠したこれを取り出す練習、苦労したわ」 「一週間じゃ足りませんでしたね。やはり数拍遅れてしまいます」 「そうか」 「向こうが飛び道具使ってたらどうしようかと思ったけどね」 「その心配は必要なかったな」 「「?」」 「お前に贈ったドレス、どれも特注でな。簡単な鎧くらいには攻撃を防げる」 まさか・・・仕立て屋が作ったウェディングドレスじゃなくてお前が贈ったのを着させたのは、そういうことか? それに毎日ドレス贈ってれば、そん中に特注ウェディングドレスが混じってても気付かねぇ、よな・・・。 「予定通りの日取りでやってたら、向こうさんの武器が届いてた。もしそうなってたら、どうなってたか分からんがな」 それで、式を早めたのか。 マジでこいつ曲者だわ。 「殿下・・・」 「ヘンゼルか。悪ィな、お前にまで嘘つきっぱなしで」 「僕はいいんです。でも、陛下は?」 「親父か」 そうだよ。確か親父さん、かなり老年なんだろ?もし心臓発作でも起こしてたら・・・ 「その心配はいらない。――――――親父は、俺が演技してたって知ってたからな」 親子揃って曲者かよ。 「クラムネッド王家をなめんなよ?何てったって、人魚ゆかりの王家なんだからな」 ・・・、・・・何だと? 人魚? 「に、んぎょ、って・・・」 「言ってなかったか。クラムネッド王家には、人魚の血が入ってる。俺のおふくろも昔は人魚で、魔法使いに足もらったんだと」 「その魔法使いって、まさか、海中なのに二足歩行していて、コンソメスープのような薬を渡したりは・・・」 「良く知ってるな。その通りだ」 あいつ・・・! 「あ!」 「何よフローラ、いきなりどうしたの?」 「契約の有効期間、いつまでだか聞いてません・・・!」 契約って、足もらった時のあれだろ?有効期間? 「あんなあいまいな条件じゃ、100年後に突然泡にされて消されても文句言えないじゃないですか!」 あー。それもそうだな。 っていうかお前100年後まで生き続ける気か。 「悪いが、俺はそれまで契約を覚えている自信はないぞ」 てめぇ、あの魔法使い! 相変わらず呼ばれてもいないのに来るんだな、お前! 「あらあら、お懐かしゅうございますわねぇ」 「あぁ、久しぶりだ」 后と懐かしげに会話してる場合か。 何の用だ? 「フローラ。契約について、お前に言い忘れていた事がある」 「・・・何です?」 「悪いが、足を元に戻す方法を知らん、というのを言い忘れていた」 言い忘れんな、そんな重要な事! 「だからすまんが、このままクラムネッドで暮らしてくれ。お前の姉妹には許可を取ってあるし、幸い居心地悪くはないようだ」 「わたくしの時も、そのような事を仰っておられましたわねぇ」 「気のせいだ頼む忘れてくれ」 貴様・・・! 「だってよ。どうすんのあんた?」 「俺は大歓迎だぜ?威勢がいい奴は好きだ」 「僕も、フローラさんにはここにいてもらいたいです」 モテモテだな。 それで、返答は? 「――――――・・・・・そうですね。では、ここにいるとしましょう」 「よっしゃ!」 「ほれ、カイン。浮かれとらんで、いい加減に式を再開せい。この後は王位継承式もあるんじゃぞ」 「了解。誓いの言葉はもう交わしたも同然だから、指輪交換からでいいか?」 「ちょっと!あたしはあんたと誓いの言葉交わした覚えなんてないわよ!?」 「一緒に戦った仲だ、いいだろ?」 なんつーアバウトな・・・。 「いいじゃないですかマイシェル。志は皆同じところにあるんですから」 「そーそー。目指すはクラムネッドの改革、ってな」 「僕だって志は同じですよ。表舞台に出ることはなくとも、殿下を生涯お支えいたします」 「そうだな、頼りにしてるぜ」 うわ。そういやこいつら、全員曲者じゃねぇか。そのうち二人にゃ危険人物って肩書きまでついてやがる。 マジで大丈夫か、この国の行く末。 カイン。 マイシェル。 フローラ。 ヘンゼル。 この4人の名が『革命家』の肩書きとともに歴史に刻まれる事となるのは、まだずっと先のことである。 今はまだ―――――― ――――――――――誰も知らない。 fin. キャスト ナレーター:ギルバート 人魚姫:フローラ 姉姫:リュオン 妹姫:グレーテル 王子:カイン 娘:マイシェル 魔法使い:ライ 王子付の侍従:ヘンゼル 後記 「執筆予定案の中で書いて欲しい話」投票1位、「人魚姫パロ」。ようやく完成しました。短編と言いつつ、やたら長い。 本家人魚姫とはだいぶ違う出来となっておりますが、いつもの事ですからお気になさらず(蹴) 4分の3近く一日で書いた(=ほとんど勢いで書いた)せいか、最後のほうでは誰が主人公なのかあやふやになっているという 物語の破綻っぷり。でもどこから書き直したらいいか分からないため書き直せません(死) 作中に出てくる国名「クラムネッド」は、アンデルセンの出身地であるデンマークの逆綴りから。 そんなもんです(笑) あー、もっと練れた話が書きたいなあ・・・。 up date 2004.07.11 |
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