「メリー・クリスマースっ!」
「メリークリスマス」
チーム焼きそばのメンバーは、その日もいつもの如くイベントにかこつけて騒いでいた。
数刻後に訪れる恐怖など、知る由もなく・・・



初めに、『それ』に気付いたのはカインだった。
彼は賭博で稼いできた金で買った上質のシャンパンをぐいぐい飲みつつ、自分の取り皿に切り分けた七面鳥の丸焼きにかぶりついていた。
かりっ かりかりっ・・・
「?」
どこからともなく聞こえてきた異質な音。まるで、何かを引っかいているような。
獣が外壁を引っかいている音とも思えずに音源を探ると、ちょうど彼の斜め前にある窓にたどり着いた。
煌々と明かりが灯り、中に複数の人間がいるのも分かるような部屋に忍び込む泥棒などはいまい。
そう思って、じっと窓の外に目を凝らす。
闇夜に浮かび上がる白い手が見えた。
「うぉっ!?」
思わず声を上げると、皆が何事かとカインに視線を向けた。
そして、彼の視線の先を追う。
白い手がすぅっと消え、代わりに脚付きのブーツが窓を蹴破った。
ガッシャァーンッ!

「きゃあっ!何!?」
「敵か!?泥棒か!?」
一気に浮き足立った室内に、張り詰めた緊張感が漂う。
その張り詰めた緊張感をハサミでバッサリ切ってくれやがったのは、皮肉な事に侵入者だった。

「あ〜疲れた。この家、やけに警備が厳重だね。結界とかトラップとかいろいろあるし。全くもう、ここまで入ってくるの大変だったよ。 ん?うっわ、すごいご馳走!これ、全部手作りだったりするの?すっごいおいしそうだね〜」

(・・・えーっと)
窓を蹴破って家の中に侵入してきた。それだけ見れば立派な不法侵入者だが、このお気楽な口調はどうだろう。
その上、この不敵な侵入者はサンタクロースの格好をしているのだ。しかもご丁寧にトナカイの角まで頭に付けている。
敵意や害意などというものは全く感じられない。
身構えていたフローラやギルバートのほうも毒気を抜かれてしまったらしく、呆れたような顔をしている。
国家の至宝とまで謳われたリュオンとしては侵入者の予期せぬ来訪にプライドを傷つけられたのか、彼は拗ねたような表情で侵入者に 問うた。
「ねぇ、きみ。どうやって結界を破ったのさ?」
「え?結界の内側から入ったに決まってるじゃないか☆」
「・・・結界の・・・」
「・・・内側から?」
(この型破りな感じ、何だか覚えがあるような・・・)
そう、それはまるで約二ヶ月前のあの日に良く似た・・・
そこまで考えたところでヘンゼルは一つの可能性を見出したが、それはあまり信じたくない「可能性」だった。
「さぁさぁ、良い子にはサンタさんからプレゼントがあるよ!いらないって言っても渡しちゃう☆」
なんて強引なサンタだ。

まぁ、確かにサンタクロースは子供が寝ている間に勝手に選んだプレゼントを勝手に置いていくものだが。
それでも何か、解釈の違いというものだけでは割り切れないものがある。
「はい、これっ!中身は開けてからのお楽しみ
差し出されたプレゼントボックスは、ガサガサと動いていた。
「いっや―――――――――!お楽しみどころか開けたら恐怖が飛び出てきそうじゃないの!」
グレーテルが恐怖の雄叫びを上げた。言っている内容も、もっともだ。
こんな得体の知れないモノを受け取るわけにはいかない。
「あの・・・僕、いい子じゃないんで、いらないです」
「そんな事言わないで、受け取れ☆」
そう言ってサンタ(仮)は、嫌がるヘンゼルに無理やり、綺麗にラッピングされたプレゼントボックスを渡した。
3人で仲良く分けるんだよっ
―――彼らにとって、聞き捨てならない台詞と共に。
「・・・お前・・・。今、『3人』って言ったよな」
「?うん、言ったよ」
それがどうした、と言う風に首を傾げるサンタ(仮)。
状況を理解していない彼に、ライは問題点を示してやった。
「その3人ってのには、どう考えてもコレが含まれてるよな」
コレ、とライが指差したのはリュオン。
「だから、それがどうしたってのさ?」
「コイツはとっくに千歳を超えてるジジィ、っ!」
ゴスゥッ!

「へぇ、きみは僕の事をジジィなんて呼べる立場にあったんだ?今まで全然知らなかったよ。僕がこれまで生きた年数の1割にも満た ない歳のきみが、僕をジジィなんて見下して呼ぶんだ?北大陸が開拓される前の事なんて何も知らないようなきみが、きみのおむつ姿から立太子式でコケた姿まで知り尽くしているこの僕に。よくそんなことができるよね。 自分より年上の者は敬えって小さい時に教わらなかった?教えたよね?この僕が。しっかりと、確実に。そんな ことも忘れちゃうようなら、ヒヨッコと呼ばれても文句は言えないよね。僕はこれからきみの事をヒヨッコと呼 ぼう。ねぇ、ヒヨッコ?」

腹黒さ全開ライのみぞおちに拳をめりこませながらリュオンは脅迫の嵐を浴びせた。
聞いているこっちの胃が痛くなってきそうだ。
嵐の直撃を受けているライは、すでに胃を痛めているかもしれない。普段が普段だけに。
「ん〜。つまり、そっちのリュオンって人は『見た目は子供、頭脳は大人』ってことなんだね!分かったよ」
名探偵コ●ンか。
「だめだよフェンリル、こっちの世界の人には分かんないギャグ飛ばしちゃ」
唐突に聞こえた少年の声。それが聞こえてきた方を見てみれば、そこには割れた窓から室内に入り込もうとしているサンタ姿の少年 がいた。
(増えちゃった!増えちゃった!変人が増えちゃった!)
「ヘルメス、遅いじゃないか。僕はもう退屈しちゃってたんだから」
「あれでも退屈してたのね」
ならば真にエキサイトしたらどうなるのか。
「ごめんごめん、プレゼント配るのに時間がかかってね。で、例のブツはしっかり渡した?」
「渡した渡した。あの子がちゃんと持ってるよ」
ほら、と突然ヘンゼルが指差された。
ヘンゼルが持っているのは、フェンリルというらしい青年に渡されたプレゼントボックスだ。ちなみに言うと、その箱はいやに軽い。
「例のブツ、って・・・これのこと?」
恐る恐るヘンゼルが訊ねると、二人は輝かんばかりの笑顔で頷いた。
「「そうだよっ!」」
箱を開けたくなくなってきた。
「・・・中、何が入ってるの?」
あまり聞きたくなさそうな顔をしてグレーテルが尋ねた。
聞きたいけど聞きたくない、そんな複雑な心情が声と表情にはっきりと見て取れる。
「ストレートに言うんじゃ面白くないなぁ。そうだ、当ててごらんよ」
後から侵入してきた少年―――ヘルメスというらしい―――に言われ、生真面目なヘンゼルは考え込んだ。
グレーテルは考えるのも嫌そうだ。

「・・・私としては、ハロウィーンにかぼちゃ被って侵入してきたあの男の行方が気になるわ」

グレーテルの言葉を聞き、フェンリルとヘルメスは一瞬動きを止めた。
沈黙の中に、プレゼントボックスが動くガサガサという音だけが響く。
やや置いて、二人は再び動き出した。
「「さぁ、中身を当ててごらん!」」
「おい、ちょっと待て!今のは正解だったのか!?それとも違うのか!?」
奴なら箱の中に入っていかねないという思いがあるため、はぐらかされると余計に怖い。
ハロウィーンの悪夢が再来しそうだ。もしかすると、もう再来しているのかもしれない。
「何のことかなー?僕、何も聞いてないよー」
「どうしよう、よりによってあの神様もらっちゃった!?」
ヘンゼル、何気に失礼だ。
「あのシヴァとかいう野郎と知り合いってこたぁ、お前らも同類か」
「そうだよ。僕は獣の神フェンリルで、こっちは伝令神ヘルメス。これからもよろしく☆」
よろしくしなくてはいけないのだろうか。

「・・・神様って、ろくな奴がいないのね」
「んん?ちゃんとしたのもいるよ。アヴィとかクロノスとかカイトとかね。僕らがちゃんとしてないだけさっ!」
自覚があるなら更生してもらいたい。
「で、プレゼント開けないの?」
「・・・開けても、何か飛び出てきたりしない?」
一瞬の沈黙。
「さぁ、遠慮せずに開けてごらんよ!」
(絶対何か飛び出てくる!)
ヘンゼルは確信した。
「お兄ちゃん・・・まさか、開けるの?」
「ヘンゼル、嫌なら嫌って言っていいんですよ?無理に開ける事ないんですから」
「あぁ。貰った以上はどうしようとお前の勝手なんだからな。埋めようが焼き捨てようが構わねぇんだぞ?」
フローラもギルバートも、プレゼントを贈った当人の前で凄い事を言っている。
「やだなぁ、そんな危険物みたいに扱わなくっても平気だって☆ねぇヘルメス
「そうそう。ねぇフェンリル
この二人が何を言おうと、もう白々しい芝居を演じているようにしか聞こえない。
「・・・とにかく、開けてみようよ。いざとなったら箱に火をつければいいんだし」
中身が爆発物ならジ・エンドだが、中身はあの男らしいので平気だろう。きっと。
きっと不死鳥の如く何度でも蘇ってくる。
フローラとギルバートが身構え、リュオンが臨戦態勢を取り、マイシェルが得体の知れない御札を持って武装している中、ヘンゼ ルがそっとリボンをほどいた。手が震えてしまうのはしょうがないことだろう。
綺麗な包み紙を剥いで、恐る恐る箱を開ける。と、箱の中から突然手が突き出てきた。
しかもその手首には可愛らしい真っ赤なリボンが結ばれている。
「〜〜〜〜〜〜〜っ!!!!」
「いやあぁぁぁぁあ!恐怖が出てきた―――――っ!!」
箱を放り出し即座に飛び退いて見守っていると、その手は横倒しになった箱からゆっくりと這い出てきた。
なまじリボンなどというプリティなものが結ばれているがために、どんなリアクションをすればいいものか迷う。
ガサッ・・・ガサガサッ・・・
怪奇映画よりもたちの悪い光景
が広がった。
これを目論んでいた(と思われる)フェンリルとヘルメスですら硬直していることから、どんな光景なのか察してもらいたい。
そんな誰もが硬直する中、唯一人行動をとったのはフローラだった。
彼女は勇敢にもガサガサと手が這い出てくる箱を持ち上げ、さかさまにして振ったのだ。
途端、ズシャァッとが箱から出てきた。
「いてっ!」
落ちた瞬間に強打したらしい腰を涙目になってさするシヴァに、フローラは包丁を突きつけた。
七面鳥を切り分けるのに使っていた包丁なのだろうが、何のためらいもなくそれを掴んで、曲がりなりにも神である男の喉元に突き つけた、その潔さがかえって怖い。
さらに恐ろしい事に、彼女はシヴァの胸ぐらをも掴んでいた。
「っ、おい、フローラ!?落ち着け!落ち着くんだ!狂気と凶器は無駄に振り回すもんじゃねぇ!」
「私たちを無駄に振り回したのは、この男だとは思いませんか」
「いや・・・、反論はできんが、とにかく武器は置いとけ!殺しだけはやめてくれ!」
「殺しはしませんよ。というか、この方なら殺しても死なないように思います」
「・・・お前、俺を何だと思ってる?」
変態で狂人ですね」
一片の迷いも無く言い放たれたこの言葉には、さしもの神トリオも絶句した。
「・・・変、態・・・・?しかも、狂人・・・・?この俺が・・・・・・!?」
「そりゃあハロウィーンにかぼちゃ被ったマント姿でドア蹴破って侵入してきたりプレゼントボックスから這い出してきたりして れば、行き着く先はその評価以外にありえないと思うわよ」
わずか二回しか会っていないのに、この評価だ。これからもこんな事を続ける気なら、さらに評価は落ちるかもしれない。
「・・・これからは、自粛しよう」
「そうしてもらえると非常にありがたいな」
「・・・ちなみに、僕とヘルメスの評価は?」
「どう考えても『彼と同類』でしょう」
シヴァを指差しながら、フローラは包み隠すことなくきっぱりと言った。
三人ともがっくりとうなだれたのは言うまでもない。
「変態で狂人な方々が三人も揃っていて、しかも三人とも背中にキノコ生やしているとなると、ウザい以外の何者でもないですね」
「ねぇ、フローラ・・・もしかして、機嫌悪い?」
ヘンゼルがこっそりとフローラの服の裾を引っ張って問うと、彼女はにっこり笑って、こう言った。
「何のことでしょう?」
なまじ普段からにこにこしている彼女だけに、こういう時、笑顔の裏に隠された心情が読み取れないのが怖い。
(どっちなのさフローラ!?)
ヘンゼルが恐れおののいていると、唐突に勝手口が開かれた。それもひどく乱暴に。

「おいおい、何だよこの惨状は。俺がいねぇ間に一体何があったんだ?」

現れたのは、いつの間にいなくなっていたのだろう、大きな木箱を三つ抱えたカインだった。
「あら。あんた、どこにいってたの」
心底不思議そうに問うマイシェルに、カインは木箱を下ろしながら笑ってみせた。
「カーレンの果物屋。店のオヤジ叩き起こして、二倍の値段で買ってきた」
「・・・何を?」
「取引の道具」
頭上にクエスチョンマークを大量に浮かべた面々をよそに、カインはずかずかとシヴァのもとに近寄っていく。
「ここに、高級リンゴが詰まった三つの木箱がある」
「リンゴ?」
途端、シヴァの目がキラリと光った。
「銘柄は何だ」
「鳳龍、朱光、暁紅。品質は農家のおっちゃんと店のオヤジの保証つき。まいったか」
何がだ。
「俺はこれらをお前にやる。そんかしお前はとっとと帰れ。俺としちゃ、いい条件だと思うんだが?」
「のった!」
「よし、交渉成立だな!ほれ、持ってけ」
「おう、じゃあ遠慮なく貰っていくぜ!フェンリル、ヘルメス、帰るぞ!」
「えぇ!?」
「さーさー行くぞ!とっとと行くぞ!はーっはっはっはー!」
「ちょ、ちょっと待ってよシヴァ!置いてかないでー!」
「あーあ、結局、何が何だか分かんなかったなぁ。あ、またお邪魔させてもらうと思うから、その時はまたヨロシク☆」
好き放題荒らしまくり言いたい事だけを言い置いて、彼らはどこへともなく去っていき、後には嵐の痕跡だけが残った。
「ようやく帰りましたか。もう来るな。
(フローラ、やっぱり機嫌悪い!?)
「それにしてもカイン。きみ、彼の好物(?)がリンゴだなんてよく分かったね」
「あぁ。昨日、夢でそーゆーお告げを受けてな」
どんなお告げだ。
「ほら、あのハロウィーンにあいつを引きずってった、クロノスとかいう奴。あいつが夢に出てきてな。物凄ぇ嫌そうな顔して 『明日は絶対天界の者、特にシヴァが迷惑をかけに行くだろうから、リンゴを用意しておくといい』ってさ。死刑宣告受けて、 最後に何がしたいか聞かれたら『リンゴが食いたい』って答えるんじゃないかってくれぇのリンゴ好きなんだとよ」
「へぇ。やっぱりアレには苦労かけられてるんだろうね」
「お前が言う台詞じゃねぇよ」
さんざん俺の胃に負担をかけてくれてるのはどこのどいつだ、と言わんばかりの様相でライは呟いた。
「・・・じゃあ、リンゴは常備しとくべきなのかな・・・」
「やめておいたほうがいいですよ。逆に寄って来ないとも限りませんから」
シヴァが来た時のために置いておくべきか、シヴァが寄ってこないように置かずにおくべきか。迷うところである。
「とんだクリスマスパーティになっちゃったけど、来年はマトモな年を送れるのかしらね・・・」
「やめろグレーテル!そういうことを言うと新年早々奴が来る!」
来年のことを言うと鬼が笑う、というのと同じような感じなのだろうか。来年のことを言うとシヴァが笑う。
「まぁ、あれでも神様だっていうし。何かご利益はあるかもよ」
「あんまりいいご利益じゃなさそうだがな」
今年と同じノリで来年も、というのなら、それは間違いなくろくな年ではない。
『思い返せば波乱万丈の人生だったのう』などと素で語れる老後になってしまうのだろうか。約一名、すでに老後だが。

「・・・何はともあれ、メリークリスマス・・・」

せめて残された「今年」の数日間だけでも、よいお年を。










END.


後記

相変わらず、皆さん苦労してますねぇ(書いてる当人のお前が言うか)
補足しておくなら、フェンリル・ヘルメス・シヴァのお三方は、ハロウィーンにシヴァがやったのと同じ類の勘違いをしています。
『サンタの格好をしていれば、不法侵入してもいい』と本気で思ってるんです。
そりゃあサンタクロースは不法侵入者ですが、窓ガラス割ったら器物損壊罪まで加算されちゃいますから気をつけて(何に)
ちなみにヘルメスは正当な(?)サンタです。この世の何より速く駆けるその足で、良い子にプレゼントを届けてまわります。
間に合わない時は人間界のサンタにも手助けしてもらいます。なんて不甲斐ない。
何気に初登場なフェンリルもはっちゃけてますし、どうしましょうって感じです。(蹴)
本当は、フェンリルが頭に生やしてる角は自前だとか箱の中はブラックホールだとかカインはこっそりリンゴを一個かっぱらってたとか 書き足したいところもあったんですが、それをやるとまた話の流れがおかしくなりそうなのでやめました。
個人的に、リュオンのサブマシンガントークを書いてる時が一番楽しかったです。あと、シヴァが箱から這い出してきてるシーンと、 フローラがシヴァに包丁を突きつけてるシーン。
いつになくヘンゼルとぐれ子を喋らせることができましたし!(主人公ズなのに!?)
それにしても、この時期はイベントが間断なく詰まってるので大変です。あと6日でSSもう一本仕上げなきゃ!?
ひぃぃ・・・!

up date 03.12.25




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