「ああ、今日はハロウィンか」
朝、居間に広がる飾り付けを見たリュオンが開口一番にそう言った。 片手で掴めるサイズのかぼちゃで作ったジャック・オー・ランタンがあちこちに置かれ、物置から引っ張り出してきたらしい呪術的な仮面が壁にかけられている。 「この仮面は危ないから駄目だって」 「あら。封印はちゃんとしてあるじゃない?」 グレーテルが仮面の裏に貼られたお札を示してみせる。 「それがはがれたらとんでもないことになるから駄目ー」 「・・・まあ、ハロウィンってあんまりいいことが起きたためしがないもんね」 苦笑交じりにヘンゼルがそう言うと、リュオンも同意するように肩をすくめた。 「毎年何かあるんだから。いくら悪霊が集まる行事だって言っても、ここまでくると呪われてるんじゃないかって思いたくなる」 「呪われてんだろ。嫌われてる覚えは山ほどあるしな」 主にどこぞの軍部辺りに、と言いつつライは鍋の火を止め、オーブンで焼かれつつあるミートパイの様子を確かめた。 ヘンゼルもテーブルクロスの皺を伸ばして「でも」と返す。 「わざわざハロウィンにやる必要はないんじゃないかな」 「じゃあやっぱり本物が集まってるのか」 「こ、怖いこと言わないでよ!」 リュオンの呟きに身を震わせたヘンゼルの後ろで、ライがふっと視線を動かす。 リュオンもグレーテルもそれを追い、二人の視線に気付いたヘンゼルもまた同じほうを見る。 ――何もない。 「悪さはしねえよ」 「何が見えたの!?」 「なんにも」 限りなく淡々とライは答え、オーブンを開けてパイを取り出す。 薄気味悪そうにその様子を見ているグレーテルを仕草でたしなめ、ヘンゼルは平静を装って質問した。 「ライ、・・・・・・その、ライって、そういうのが見えるの?」 「何が」 「何が、って・・・・・・うう、ゆ、幽霊とかさ」 「ああ、見えるな」 「見えるの!?」 「でも悪さはしねえから」 「いや、うん、そういう問題じゃ・・・・・・!」 「・・・・・・そこにいるの?」 そろそろとグレーテルがライの見ていた場所を指差すと、ライは考え込むように視線をさまよわせた。 答えないまま戸棚を開けて皿を取り出す。 「答えてよ!」 「・・・・・・だから悪さはしねえって」 目を逸らしたまま答えるライをヘンゼルは思い切りゆさぶった。 「はっきり言ってくれないのが一番怖いんだよ!っていうかその反応、絶対いるってことでしょう!?」 「・・・・・・・・・・・・」 「ライー!」 「ヘンゼル」 軽く恐慌状態に陥りかけたヘンゼルの肩を、笑顔のリュオンがぽんと叩いた。 「そんなに怖いなら、仮装をしようじゃないか」 「・・・・・・、・・・・・・ええ?」 「仮装は本来、災い避けの意味があるんだ。悪霊に連れて行かれないように、ってね」 「う、うん」 「だから仮装さえしちゃえば怖いものなんてないよ。ね?」 「う・・・・・・うん・・・・・・?」 「ペテン師」 「黙れ。――さあ、グレーテルも」 「うん・・・・・・ねえ、ライ」 やけにはっきりしない口調のグレーテルに視線が集まる。 その手がライの並べた皿を示した。 「・・・・・・1枚多いわ」 妙な沈黙が広がる中、ライは平然と皿の数を数えていく。 ヘンゼルもそれを目で追いかけた。 1、2、3、4、5、6、7、8、・・・・・・9。 「いや、これで合ってる」 「多いよ!」 「合ってる」 「・・・・・・さあ行こうかー」 「ちょっと、リュオン!?」 「並べた本人が合ってるって言ってるんだから大丈夫。そう大丈夫」 かたくなに言い張るライを追及することもなく、リュオンは2人をずるずると引っ張っていく。 「何かいるならはっきり言ってー・・・・・・!」 家中に、ヘンゼルの声がむなしくこだました。 小噺6『住人(?)が一人増えたハロウィン』 END. up date 07.10.22 |
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