「・・・・・・なんだ?妙に賑やかだな」
「いくらハロウィンとはいえ、朝からこれはちょっと気が早いんじゃないかしら?」 居間に人が増えるたびにそんな台詞を言われ続けたグレーテルは、むっつりと答えた。 「いいじゃない。一種の護身よ」 「一種のっていうか、色々な意味でな」 「重くないの?」 「ちっとも」 グレーテルは被っている兜に手を触れた。金属製のそれはひんやりと冷たいが、嘘のように軽い。 肩甲と胸甲も同じく金属製のはずなのに、ほとんど重さは感じなかった。似たような格好をしているヘンゼルも同じだ。 「さすがにこれで一日過ごすのは大変だから、ちょっと重量操作の魔法をね」 「なるほど」 「それだったらフル装備にすりゃいいじゃねえか。確か物置にあっただろ?」 「動きにくいじゃない。それに雰囲気が出てればいいのよ」 「でもよ、ハロウィンの仮装ってもっとこう、モンスターみてえなやつじゃねえの?」 「モンスターの格好?そんなんで誰を倒せるっていうのよ」 「・・・・・・ヘンゼルとか」 「倒れないよっ!」 「何がですかー」 「わあああああああああああああああっ!?」 不意に背後で囁かれ、ヘンゼルは全力で悲鳴を上げた。 「フローラ・・・・・・まるで気配がなかったぞ」 「そうですか?寝ぼけていたんですかね」 「寝ぼけると気配を消すのか、お前は。普通逆だろ」 「なら私は普通ではないのでしょう」 にこにこと至極楽しげに微笑んでいるフローラは「おや」と何かに気付いたように食卓に目を留めた。 「来客でもあるのですか」 「向こうの世界から来てるらしいわ」 げんなりとグレーテルは言い、ちらりとライを盗み見た。その視線を追ったフローラは納得したように深々と頷く。 「風物詩ですねえ」 「ええ?」 「王宮にいた頃は恒例でしたからね、ハロウィンの来客は。ですからいつも一皿余分に用意していたんです」 「恒例・・・・・・」 「ハロウィン以外でもありましたが」 「・・・・・・そういえばライ、いつもはちゃんと計量してるのに、妙に多く作る時があるよね」 「気のせいだ」 「事実だろ?」 鋭く突っ込みを入れたカインをライは静かに見つめ、すぐにその肩よりやや上あたりに視線を移す。 「・・・・・・気をつけろよ」 「何にだよ!?何かいるのか、おい、俺に何か憑いてんのか!?」 「さあ」 「てっめ・・・・・・!やめろよそういう微妙な反応!」 「あ」 カインがライに掴みかかろうと立ち上がった瞬間、グレーテルの視界を掠めるものがあった。 それは、まるで。 「・・・・・・ねえカイン、その・・・・・・悪いものじゃないと思うわよ?」 「は?」 周囲の視線が一気にグレーテルに集中する。 「見えたのか」 「・・・・・・多分」 「どんな?」 「あたしと同じくらいの子・・・・・・。お兄ちゃんについて回る弟みたいな感じの」 「じゃあそれだ」 ライの言葉にカインが固まる。 「マジで?」 「マジで」 「・・・・・・グレーテル」 「見えたのはこれが初めてよ」 見なければ良かった、と思う類のものでなくて幸運だったのだろう。けれど内心は複雑だった。 あちらの世界を覗いてしまった。 そのことが、なんとも言えずグレーテルの心をさざ波だてた。 「グレーテル、これ」 何かを察したようにヘンゼルがグレーテルに小さな袋を差し出してくる。 「トリックオアトリート」 「・・・・・・あたしがもらうんじゃ、逆じゃない?」 「どのみち僕は配り歩く側だから」 ヘンゼルは柔らかく微笑んだ。 守られている。 その事実がひとつの光。 小噺7『向こう側を見たハロウィン』 END. up date 07.10.23 |
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