【鬼を飼う者】
登場人物
三堂 遼介(みどう・りょうすけ):主人公、刑事
青木 千夏(あおき・ちなつ):三堂の部下で後輩、人の話を聞かない
真柴 創(ましば・そう)/カイ:画家、多重人格障害
古森 真珠(こもり・しんじゅ):創の家事手伝い兼弟子(自称)
相馬 由良之介(そうま・ゆらのすけ):上に同じ、真珠の幼馴染
狩谷 佑佳(かりや・ゆか):三堂の同僚(年上)。青木の良き(?)相談者
弔問客A
弔問客B
受付嬢
(鑑識)

■■■

 鯨幕・「真柴家葬儀」の立て看板など
 喪服姿の創
 弔問客の中に三堂、創に声を掛けるか迷って結局立ち去る
 別の弔問客二人が噂しつつ歩いてくる

客A 「人が死ぬのなんてあっけないもんねえ。綾子さん、転落死ですって?」
客B 「そうらしいわねえ。でもね、知ってる?お葬式の席でこんなこと言うのも何だけど、それ、息子さんが突き
   落としたって噂があるのよ」
客A 「ええ!?・・・・・・ああ、でも、案外そうかもしれないわねえ。綾子さんアルコール中毒だったんでしょう?虐
   待とか、ひどかったって聞いたもの」
客B 「それで耐え切れなくなって突き落とした、か」
客A 「息子さんもおとなしそうな顔してるけど、そういう人ほど思いつめると危ないっていうし・・・・・・あ」
 客AB、創が立っているのに気付いてそそくさと立ち去る
創無言、風の音
創  「母は死んだ。転落事故で、あまりにもあっけなく。そう、死んでしまったんだ。
    ・・・・・・その母に存在意義を見出していた彼は、一体どうなってしまうのだろう。
    いなくなってしまうのだろうか。
    ――嫌な予感がする。何か、とても――・・・・・・」
 暗転


 遠くからパトカーのサイレン、慌しい足音、人の声


 明転
 シートを被せた死体の付近をいらいらとうろつく三堂
三堂 「全く、あいつは何をやっているんだ。鑑識から検死結果を聞くだけの作業にどれだけの時間をかける気だ!」
 遠くから声のみ(もしくは端役登場)
鑑識 「三堂警部、そう歩き回られると気が散ってしょうがないんで・・・・・・じっとしててもらえますかね?」
三堂 「ああ?・・・・・・分かったよ」
 三堂、歩き回るのはやめるが足裏で地面を打っているので怖さはそのまま
 青木登場
青木 「警部、鑑識から検死結果聞いてきました!」
三堂 「遅い!」
青木 「わ、そう睨まないでくださいよ。私だってサボってたわけじゃないんですから」
 青木、むくれる
 三堂ため息
三堂 「ああ、はいはい。・・・・・・それで、結果は?」
青木 「被害者は桜庭 淳子、21歳」
三堂 「身元はもう知っている」
青木 「あ、そうですか。じゃあ死因から。遺体を見て判るとおり、まあ絞殺です。素手で被害者の喉を締め上げて、
    こう、ひと息に」
三堂 「俺の首でやるんじゃない」
青木 「あ、すいません。つい。――で、絞殺の跡の手形も、これまでのものと一致したそうですよ。・・・・・・無差別連
    続絞殺事件、5人目の被害者。決定ですね」
三堂 「被害者の共通点も相変わらずだしな」
青木 「共通点?・・・・・・確か、素行があまり良くなかったことと、夜遊びの多さ。それに、(死体に被せられたシート
    をめくり)黒い服・・・・・・ですか。あれ?」
 青木、死体の匂いをかぎ回る(特に首の辺り)
三堂 「何をやってるんだ青木。犬の真似か?みっともない真似をするんじゃない」
青木 「え?あ、はい」
 ついでに自分と三堂の匂いもかぐ
 三堂、青木の頭を軽く叩く
三堂 「こら。やめろと言っているだろう」
青木 「・・・・・・すいません」
 腕組みしたり首傾げたり
 ふと思いついたようにしゃがんで死体に手を合わせる
 三堂舌打ち
三堂 「最初の事件が起きたのが三年前。前任者が定年して、俺が担当になってからも半年だ!なのに犯人逮捕はおろ
    か、有力な手がかりすら見つけられていない。今度の被害者は俺たちのせいで死んだようなものじゃないか!
    ――絶対に捕まえてやる。絶対に!」

 舞台暗転


***


 舞台明転
 舞台左にイーゼル、右に丸テーブル
 イーゼルの前に座り、黙々と絵を描く創
 真珠、ティーセットを持って登場

真珠 「先生、またそんな絵を描いてるんですか」
創  「(無反応で作業続行)」
 真珠、創の肩を叩く
真珠 「先生」
 創、顔を上げる
真珠 「お茶の用意ができましたから、ここらで一休みしといてください。最近熱中しすぎですよ。食事もろくに食べ
    ていらっしゃらないでしょう」
創  「そういわれてみると・・・・・・食べた記憶がない」
真珠 「駄目ですよ、そんなことじゃ。ゆー君が買い物から帰ってきたらすぐ夕飯の用意をしますから、そしたらきち
    んと何か食べてくださいね」
創  「ああ・・・・・・うん。ありがとう」
 由良之介帰宅
由良 「ただいま〜。真珠、おまえ魚さばける?三枚おろしでも開きでもいいんだけど」
真珠 「うん、できるわよ。何の魚?」
由良 「アジ。魚屋のおっちゃんに勧められてさ。安かったし、つい」
真珠 「安く買うのはいいけど、衝動買いは控えてね。――今日は焼き魚で決定」
由良 「やった。おっちゃん一押しだっつーから、絶対うまいぜ。あのおっちゃんの見立ては確かだ。ああ師匠、夕刊
    読みます?」
 新聞を手渡しつつ
創  「ありがとう」
 丸テーブルへ移動
 ティーカップにお茶を注ぐ真珠。創と由良之介にそれぞれ渡し、自分も着席
 創、夕刊の一面記事に目を留める
創  「『無差別連続絞殺事件、5人目の犠牲者』・・・・・・?」
 新聞を広げ、記事に目を通す
由良 「ああ、それっすか。スーパーでおばちゃんたちが噂してましたよ、また起きたのか〜、って。前回いつでした
    っけ、半年前?いや、もっと先かな?素手で人を絞め殺す、ってやつでしたよね」
真珠 「私もTVで見たわ。確か、最初の事件って3年も前の話なんでしょ?なのにまだ犯人が逮捕されないなんて!警察
    は何をやってるんだか」
創  「真珠君、そういう言い方は止めなさい。彼らだって遊んでいるわけじゃない。手がかりがなければ動きようがな
    い。だから今、それを探しているんだろう」
真珠 「あ、・・・・・・すいません。そういうつもりじゃ・・・・・・」
 気まずい沈黙
由良 「(話題を変えて)師匠。あの絵、今度はどんな風になるんすか?」
創  「ん?どうだろう・・・・・・僕にも解らない。ただ、明るい絵にならないのは確かだ」
由良 「・・・・・・でしょうね」
真珠 「先生は宗教画をお描きになったほうがいいんじゃないですか?」
創  「僕はそんなものを描いて許される人間じゃない」
真珠 「どうしてです?先生の絵は綺麗です。悪い人にそんな絵は描けません!」
創  「どうかな」
真珠 「先生?」
創  「――僕の中には鬼がいる」
由良 「鬼・・・・・・ですか?」
創  「そう、鬼だ。そいつが僕の中にいる限り、僕は綺麗な絵なんて描けないだろう」
真珠 「でも、先生の描く絵は綺麗です」
創  「ありがとう。(立ち上がり、イーゼルへ)でも、そういう綺麗さじゃないんだ。僕が描きたいのは(着席、筆
    を取る)――・・・・・・人が救われる絵さ」

 三者沈黙
 暗転


***


 舞台明転
 署内、汚い机と整頓された机が並んでいる
 三堂、汚いほうの机に座って頭を抱えている
三堂 「犯人の目的は何だ。金か?恨みか?・・・・・・いや、そんなものが絡んでいるヤマじゃないな。被害者の何を見て
    犯行に及んだんだ?黒い服か?――違うな。そんな理由で殺していたら町は死体の山だ。――ああ、解らん。
    (事件ファイルを開いて)年齢は比較的若いほうだな。他は・・・・・・見当たらん。素行の悪さと夜遊びの多さと、
    黒い服。それ以外のどこに共通点がある・・・・・・?」
 狩谷登場
 整頓されたほうの机に座ろうとして三堂の机の様子に顔をしかめる
狩谷 「おいコラ三堂、事件の解決に熱心なのも解るが、少しは片付けな。私の机にまではみ出てるよ」
三堂 「(顔を上げず)うるさい。このヤマが解決したら片付ける」
狩谷 「(三堂の首を腕で締め上げ)年長者に向かってその口の利き方は何だ、ああ?お前はあれだねえ、パズルが解
    けないと、解けるまで何時間でも粘るほうだね」
三堂 「だったら何だ(狩谷の腕を振り解き、苛立たしげに)」
狩谷 「そういうのはね、少しパズルから離れてみたほうが良かったりするんだ。そうでなくたってお前は熱中しすぎ
    なんだから、ここらで息抜きしときな仕事馬鹿。そんなお前にこれを授けよう。(チケット取り出し)ほら、
    お前が好きだと言っていた画家の、展覧会のチケットだ」
三堂 「ああそうか。それで、どんな罠が仕掛けてあるんだ?」
狩谷 「友人の厚意を疑うのか?罠もクソもないさ。昔の友人がこれの企画担当にあたったそうでな、タダで譲ってく
    れたんだ。私はどうせ行かんから、お前にやろうと言っている」
三堂 「いらん。タダより高いものはないというし、お前に借りを作るなんて恐ろしい真似ができるか」
狩谷 「ほーう・・・・・・?(中指振り上げかねない勢いで)」
 青木登場
 緊迫した空気を感じて怯える
青木 「え、えっと・・・・・・お2人とも、一体何をなさって・・・・・・?」
狩谷 「ああ?何だ、お前か青木。いやちょっとな、三堂を呪っていたところだ」
三堂 「呪っていたのか!?」
狩谷 「(無視)父は神主、母は陰陽師。人呼んで『呪い殺し屋狩谷』とは私のことだ」
青木 「はい!(挙手)だったら私は褒め殺し屋になります!」
三堂 「何の話をしている!?――そもそも青木、お前は何をしに来たんだ」
青木 「ああ、そうでした。私は三堂警部の息抜きをしに来たんです」
三堂 「そんな必要はない」
狩谷 「(三堂が言い終わる前に)だったらちょうどいい。ここに展覧会のチケットがある。この馬鹿引きずって連れ
    て行ってやれ」
青木 「ありがとうございます、狩谷警部!」
三堂 「ちょっと待て、何か噛み合っていないぞ。なんで青木が礼を言うんだ。そして誰が馬鹿だ」
狩谷 「そんな野暮なことを訊くお前が馬鹿だ。とにかく黙って連れて行かれろ」
青木 「そうですよ警部!ほら、息抜き息抜き」
 青木、三堂の腕を掴んで無理やり連れ出す
三堂 「は?お、おい。狩谷!」
狩谷 「2人でゆっくりしてこい。青木、あとで話聞かせてくれよ」
青木 「了解しました」
三堂 「話って何だ話って。それに今は画廊に行ってる場合なんかじゃないだろ!俺は事件の解決を」
青木 「ほらほら行きますよ先輩」
狩谷 「楽しんで来いよ2人とも」
三堂 「人の話を聞け!」
 むなしく響く三堂の叫び
 ものすごく楽しそうな狩谷、手を振って見送る

 カーテンを引いて机を隠す
 三堂・青木、その後ろを通って逆の袖へ

 青木に腕を掴まれっぱなしの三堂、諦めた様子で青木に従う
青木 「ここですね、展覧会やってる画廊。えっと・・・・・・(看板を見て)『ましば そう』って読むんですか、これ」
三堂 「・・・・・・ああ」
青木 「何ですか警部、機嫌悪いですね。そんなに事件ファイルと向き合っていたかったんですか?」
三堂 「事件を解決したがらない警察官などいないだろう」
青木 「ああ、それもそうですね」
三堂 「解ったら、次からはこういう強引な真似は控えてくれよ」
青木 「え。・・・・・・今回はいいんですか?」
三堂 「今回に限って、だ。真柴画伯に免じてな。――俺も一度見ておきたかったんだよ。いい機会だ。お前もじっく
    り見ておけ」
青木 「了解です!」
 刑事ペア画廊に入り、パンフレットを貰って鑑賞タイム
青木 「わあ、綺麗な絵ですねえ。公園に花に果物。真柴画伯って、風景画と静物画が基本なんですか?」
三堂 「ああ。若いし、知名度もまだ低いが、いい絵を描く」
青木 「そうなんですか。・・・・・・あれ?燃えてる手?しかも何か、生々しい・・・・・・」
三堂 「『祈り』か?真柴画伯の特徴みたいなものだ。時々そういう絵が混じる」
青木 「でも、これは・・・・・・あ」
三堂 「何だ」
青木 「これが描かれたの、4件目の事件が起きた直後ですよ」
三堂 「それがどうか、・・・・・・――!(急いで他の『祈り』の元へ)これも、これも・・・・・・これもだ!」
青木 「もしかして、全部一致してるんですか」
三堂 「(頷き)これは・・・・・・どういう符合だ?被害者の死を悼んでいるのか?」
 ふいに青木の携帯電話が鳴る
 青木、慌てて外に出、少しして戻ってくる
三堂 「携帯の電源くらい切っておけ」
青木 「すいません。――先輩、いえ、警部。署に戻りましょう」
三堂 「どうした」
青木 「科捜研の友人から情報が。――手がかりが、出たそうです」
三堂 「・・・・・・何だと?」
青木 「被害者の首に付いていた手形の辺りから、絵の具油が検出されたそうです。メーカーも特定されて、今は購入
    時期を絞り込んでいるそうです」
三堂 「絵の具油・・・・・・」
青木 「私が死体の周りでかいだ匂いはこれだったんです。お酒と香水の匂いに混じって、何となく石油系の匂いがし
    ました。この画廊の匂いもそうです。もしかして、同じ絵の具油じゃないですか?――何なんですか、この一
    致・・・・・・!」
三堂 「事件発生直後にのみ描かれる不気味な絵。絵の具油、――画家。二つまでなら偶然でも許せるが、もし他にも
    共通点があったら・・・・・・、!」
 三堂、急いでパンフレットをめくり、あるページで動きを止める
青木 「・・・・・・まさか、あるんですか?」
三堂 「住所だ。――このパンフレットどおりの住所なら、真柴画伯の家は、犯人出没区域のほぼ中央にある」
青木 「偶然が、偶然じゃなくなった・・・・・・」
三堂 「・・・・・・決定、か・・・・・・?」
 なぜか信じたくなさそうな三堂
青木 「・・・・・・真柴画伯が殺害の動機を持っていれば確定なんですけど。でも、今回の事件に恋愛関係だの金銭トラブ
    ルだの、そういうものが絡んでいるとも思えませんし。――とりあえず、話を聞いてみる価値はあるんじゃな
    いでしょうか」
三堂 「・・・・・・そうだな」
 三堂、深呼吸して顔を上げ、青木の頭を乱暴に撫でる
青木 「ひゃっ!?」
三堂 「よくやった」
青木 「――え」
 青木、照れて思わず動きを止める
三堂 「お前、警察手帳は持っているか?」
青木 「う、あ、はい。あ、手錠もあります!」
三堂 「だったら行くぞ。事情聴取だ」
青木 「はい!」
 両者退場
 舞台暗転


 カーテンを開けて真柴家セットを出す


 舞台明転
 相変わらず黙々と絵を描き続ける創
 床で新聞を読んでいる由良之介。一面の記事に気付き、真珠を手招きする
由良 「おい真珠。ちょっと来て、これ読んでみろよ」
真珠 「何?まだ掃除の途中なんだけど。・・・・・・あ、『無差別連続絞殺事件、3年目にして初の手がかり』?」
 創、絵を描く手を止める
真珠 「『被害者の遺体から油彩用の絵の具油が検出され』、・・・・・・やだ、もしかして、絵に関係してる人が犯人なの?
無差別殺人犯が画家だなんて」
 真珠の台詞を遮るように
創  「あれは無差別殺人なんかじゃない」
弟子 「「え?」」
創  「彼は被害者を選んでいる。間違いなく」
真珠 「・・・・・・先生?何でそんなこと・・・・・・」
 ふいに呼び鈴
 真珠、創を気にしながらもドアに向かう
 由良之介も新聞をたたんで立ち上がり、ドアを窺う
真珠 「どちら様ですか?」
三堂 「(警察手帳を見せつつ)警察です」
 創、『警察』と聞いて息を呑む
由良 「警察!?」
真珠 「(動揺)え、・・・・・・何を」
三堂 「真柴さんにお話を伺いたいのですが、よろしいでしょうか」
真珠 「・・・・・・分かりました。どうぞお入り下さい」
 刑事ペア入室
 創、イーゼルの横に立って刑事ペアに頭を下げる
 三堂、キャンバスへ視線。横の作業台には絵の具油。青木と顔を見合わせて頷く
 創、二人に椅子をすすめる
創  「どうぞお座り下さい。古森君、相馬君。きみたちも」
真珠 「え?・・・・・・はい」
 刑事ペア着席。続いて画家トリオも着席
三堂 「――初めまして、真柴さん。私は池袋署の者で、三堂と申します。こちらは部下の青木」
青木 「初めまして」
創  「真柴と申します。こちらは弟子兼家事手伝いの古森君と相馬君」
由良 「ども」
真珠 「(無言で会釈)」
創  「――それで、お話とは一体?」
三堂 「『無差別連続絞殺事件』というのをご存知ですか」
創  「(わずかに動揺)・・・・・・ええ。それが何か」
由良 「刑事さん、まさか師匠を疑ってるんすか?」
創  「(たしなめるように)相馬君。きみは黙っていなさい」
由良 「・・・・・・すんません」
 三堂、ポケットから写真を取り出しテーブル上に並べる
三堂 「彼らをご存知ですか」
創  「(動揺)いいえ・・・・・・いや、彼らは・・・・・・」
 なぜか苦悩、しばしして諦めたように
創  「・・・・・・被害者、ですね。『無差別連続絞殺事件』の」
三堂 「ええ、そうです。ご存知なら話は早い。――最近、深夜に外出なさったことは」
創  「・・・・・・10日ほど前に」
三堂 「10日?それは間違いございませんか」
創  「ええ」
 青木、警察手帳にメモ
創  「――・・・・・・彼らを殺したのは僕です」
青木 「えっ」
 弟子S、息を呑んで創を見る
三堂 「・・・・・・犯行をお認めになるのですか?」
創  「ええ。一連の事件は全て僕がやりました。僕だけの犯行です。他の人は一切関係していません。――誰も」
真珠 「先、生・・・・・・?そんな・・・・・・」
由良 「まさか・・・・・・」
三堂 「私にはまるで、あなたが誰かをかばっているように思えるのですが」
 激しく頷く青木
創  「いいえ。あれは僕の仕業です」
三堂 「・・・・・・もしあなたが嘘の証言をしているのなら、それは偽証罪に問われる可能性があります。三ヶ月以上、十
    年以下の懲役。そういう発言は慎重にしたほうがよろしいですよ。好きで牢に入りたいというのなら別ですが」
創  「いいえ嘘では、・・・・・・!」
 創、唐突に表情が消える(カイに変化)
カイ 「牢?」
三堂 「・・・・・・真柴さん?」
真珠 「先生?」
カイ 「お前らも鬼か?」
三堂 「鬼?」
カイ 「創を害するのか」
青木 「え」
由良 「師匠?どうしたんすか。何かおかしいっすよ」
 カイ、由良之介を無視。三堂を見据える
カイ 「害するのなら――殺すまで」
 三堂、異常な様子に気付いて身を引く
 全く表情のないカイ
三堂 「・・・・・・お前、真柴 創か?」
カイ 「いいや。私はカイだ。創を守るためにいる、鬼だ」
由良 「お・・・・・・鬼?」
カイ 「そう。鬼を殺して創を守る」
青木 「(無理やり平静を取り戻して)何をおっしゃっているのか解りかねます」
カイ 「解らないのか。創を害しに来たくせに。――あの鬼どもと同じだな。殺さねばなるまい」
三堂 「・・・・・・まさか・・・・・・、鬼というのは、被害者たちのことか」
カイ 「あの黒服どもを被害者と呼ぶなら」
三堂 「――彼らは人間だ!」
カイ 「いいや、あの者たちは鬼だった。罪の匂いをまとい、夜の気配をにじませる者。――創を害する者。奴、綾子
    と同じ」
由良 「綾子、って・・・・・・師匠の母親のことっすか?」
カイ 「そうだ。あの、黒服の鬼。創を虐げ続けた者」
三堂 「――ちょっと待て。お前の母親は、3年前に転落事故で亡くなった、あの真柴 綾子さんだろう。あれは事故か
    自殺か他殺か、判断がつかないまま迷宮入りになっていたはずだ。――まさか、あれはお前の仕業だったのか」
カイ 「ああ。あの鬼は私が殺した」
青木 「な・・・・・・何ですって!?」
由良 「どういうことっすか!」
三堂 「真柴 綾子はアルコール中毒だったんだ。そして、息子である創さんに暴力を振るっていた。証言を聞く限り、
    それはかなりひどいものだったらしい。――だからこいつは、真柴を守るために母親を殺したんだ」
カイ 「よく解っているではないか。あの鬼は創を牢に入れ、さんざん暴行を加えた。だから殺したのだ。創が殺され
    る前に」
青木 「牢、って・・・・・・まさか、檻!?」
カイ 「そう呼ぶのならば檻というのだろう。私はそれを壊して外に出て、綾子を殺した。しかし鬼は他にもいた。創
    を害する黒衣の鬼。そいつも殺した」
三堂 「・・・・・・それが・・・・・・最初の被害者か・・・・・・!」
真珠 「先生がおっしゃってた『あれは無差別殺人なんかじゃない』って、そういうこと・・・・・・?殺された人たちはみ
    んな、先生に何かした人たちなの!?」
三堂 「――お前にとって、黒い服を着た者は鬼でしかなかったというのか!」
カイ 「ああ。暗闇を纏う者など、鬼以外の何者でもなかろう」
青木 「・・・・・・だから、被害者はみんな、黒い服を・・・・・・」
三堂 「黒い服と暴力が、お前の現れる条件だったということか」
カイ 「そうなるな」
三堂 「そうか。――だが、俺は納得いかない。真柴 創を守りたかったと、それは解る。だが、殺す必要はあったの
    か?そこまでやる必要はどこにもなかったはずだ!」
カイ 「だからなんだ」
 三堂、狂気を感じて後ずさり
カイ 「私は、創さえ無事であれば構わない。相手が生きていようが死んでいようが知ったことではない。ただ、殺し
    ておけばその先、そいつが創に害を及ぼすことはなくなる」
三堂 「・・・・・・ああ・・・・・・」
 解りたくないのに解ってしまった三堂
三堂 「お前は・・・・・・本当に、それだけなんだな。真柴 創を守れさえすれば、他のことなどどうでもよくて――目的さ
    え達成できれば、手段は何でも良かったんだ。お前の守るべき者に害を与えさえしなければ、それで・・・・・・」
カイ 「よく解っているではないか」
 カイ、初めて表情らしいものを見せる
 皮肉っぽい笑み
カイ 「まるで、お前も私の仲間であるかのようだ」
青木 「警部はあなたの仲間なんかじゃないわ!」
カイ 「知っている。あなたはむしろ――創の仲間だ」
 胸ポケットからナイフを取り出す
カイ 「創はずっと祈っていた。『こんなことはやめてくれ』と、あの絵を描きながら、ずっと。私は創を守るためだ
    けに生まれた存在で、それを放棄することはできなかったけれども。私がいなければ、創が牢に入ることもな
    くなるのだろう?――鬼は創を害する。いずれこうするつもりだった」
三堂 「待て・・・・・・お前、何をするつもりだ!」
カイ 「私は消えよう。創のために」
三堂 「やめろぉぉっ!」
 カイ、自分の胸を刺す
真珠 「っ・・・・・・いやぁぁぁあああっ!!」
由良 「師匠、師匠!」
三堂 「・・・・・・っ!青木、救急車だ!早く!」
青木 「はい!」

 カイにすがりつく真珠と由良之介、遠くから救急車の音
 舞台暗転



 カメラのシャッター音
 舞台明転
 机の上に足を乗せて新聞を読む狩谷、ぐったりした三堂、肩揉み奉仕中の青木
狩谷 「『無差別連続絞殺事件、3年目にして容疑者逮捕』か。さすがに注目されてた事件だけあって扱いが違うな。
    私のヤマなんぞ解決しても三面の隅だ」
三堂 「したのか、解決。いや、それ以前に事件の担当だったのか」
狩谷 「お前がそっちのヤマに熱中してる間に任されたのさ。『高級ホスト誘拐監禁事件』、犯人はオカマ。色々と
    やりづらい事件だった」
青木 「それは・・・・・・確かに」
三堂 「ご愁傷様。だが、記事の大きさで事件の質が決まるわけじゃないだろ」
狩谷 「そうは言っても、あの苦労にこの扱いじゃあね。男装してオカマバーに潜入して尻撫でられまくったこっち
    の身にもなってみな。一歩間違えば貞操の危機だったんだよ私は。それに対してお前らは何だ?記事は一面、
    ニュースでも報道された上に世間じゃちょっとした英雄扱い、おまけに昇進?ふざけんじゃない」
三堂 「ふざけちゃいないさ」
狩谷 「どうだかね。これでお前が私の上司なんてことになったら、私は辞職する」
三堂 「心配するな。そのうち降格するから」
青木 「何不吉なこと言ってるんですか!」
三堂 「別に不吉じゃないだろう?警部と警視とじゃ動きやすさが違う。現場を離れて事件が解決できるものか。現
    場を離れるくらいなら降格したほうがましだ」
狩谷 「警部・警部補のコンビと警視・警部のコンビとじゃ上層部の扱いも違ってくるしねえ。――ああ、お前ら
    もしかして、コンビ解消の危機にさらされてるのか?」
青木 「ええ!?(真っ青)」
三堂 「ふん。その上層部に、こいつと俺はセット扱いされてるんだ。怪奇事件担当としてな。この身分じゃ誰かの
    配下に付くこともないだろうし、当分コンビ解消はできないだろうよ」
青木 「(むくれて)警部は私とコンビを組んでるのが不満なんですか?」
三堂 「もう少し人の話を聞いてくれれば不満はなくなる」
狩谷 「ほーう?(にやにや)」
青木 「ってことは、それ以外は満足してるってことですね?そうなんですね!?」
三堂 「まあ・・・・・・そうなるな」
 青木、三堂が見てないのをいいことに浮かれまくり
 狩谷に苦笑されて自粛
青木 「(話題逸らし)あ、そ、そういえば警視。真柴さんって多重人格障害だったんですよね?裁判は、やっぱり
    それを考慮した上で進むんでしょうか」
三堂 「だろうな。まあ、真柴自身は『そんなことは忘れて公正に裁いてくれ』と言っていたが。多重人格というの
    は本人に自覚がないものなんだが、真柴の場合は違ったようだしな」
青木 「へえ、どうやって知ったんです?」
三堂 「父親が精神科医だったんだそうだ。早くに亡くなったそうだが、仕事に関する本は山ほど残っていた。真柴
    はたびたび記憶が途切れる自分に不安を抱き、その本をあさった結果、自分が多重人格だという結論に至っ
    た。――で、手紙を出したんだそうだ。もう一人の自分宛に」
狩谷 「はあ?そんなもん、ポストに入れれば届くってもんじゃないだろ」
三堂 「だから、置手紙だ。『いるなら返事をくれ』とな。そして返事が来て、真柴は自分の中にもう一人、カイと
    いう人格があることを知った」
青木 「なるほど・・・・・・」
三堂 「カイが自分のことを鬼と呼んだ理由も父親にある。――真柴の父親は、酒を飲んで我を忘れた状態の母親を
    『鬼が憑いている』と言って真柴に説明していたらしい。――結局彼は、両親に縛られすぎていたんだ。父
    親に自分の存在を定義され、母親に自分の存在理由を与えられて」
青木 「うーん、わかったような、わからないような・・・・・・」
三堂 「解らないのか。鬼と定義されることも、敵を定めることもなければ、カイは存在し得なかった上、今回の事
    件も起きなかっただろう」
青木 「う〜・・・・・・よくわかりませんよ、警視・・・・・・」
三堂 「存在し得ないものに形を与えたのが父親、敵と戦うという使命を与えたのが母親。母親が死んで敵を見失っ
    たカイは暴走。これでもまだ解らんか?」
青木 「あ、それなら解ります」
三堂 「ばぁか。――狩谷、お前にも礼を言わなくてはな。あの展覧会に行かなければ、事件の解決はなかったかも
    しれん」
狩谷 「今度はもっと事件に関係なさそうな場所のチケットをやるよ。温泉旅館とかな。ああ、でもお前だったら、
    推理小説の探偵並の確率で事件にぶつかるか」
三堂 「やかましい。それはお前だろ、疫病神め」
狩谷 「私は自分から事件に首をつっこんでるんだ」
三堂 「物好きだな」
狩谷 「ありがとう」
三堂 「――それにしても、あの展覧会が見納めになると判っていればな。5人殺害じゃ実刑判決は確実だし、今後
    は展覧会も開かれにくくなってしまうだろうし。ああ、あの絵がもう見られなくなってしまうとは・・・・・・」
 受付嬢登場
受付 「三堂警視、お客さんです」
三堂 「客?」
受付 「ええ。相馬さんと、古森さんって方が」
三堂 「相馬に古森?――ああ、彼らか。ありがとう、通してくれ」
受付 「はい」
 受付嬢退場
 真珠・由良之介登場
真珠 「どうもお久しぶりです。その節はお世話になりました」
青木 「いえ、こちらこそ」
三堂 「それで、どうかなさいましたか?」
由良 「師匠から、これ預かってきたんす」
 由良之介、持っていた包みを三堂に渡す
三堂 「これは?」
真珠 「絵です。先生の。さすがに油絵はまだできないので、鉛筆画だそうですが。お世話になったお返しに、三堂
    さんと青木さんに、って」
三堂 「画伯が・・・・・・」
狩谷 「ほお?そりゃあ貴重なんじゃないのか」
由良 「将来プレミアがつくかもしれねっすから、大事にしてくださいね」
真珠 「ゆー君?」
由良 「へへっ」
三堂 「――ありがとう」
 三堂、包みを開いてスケッチブックを取り出し、めくっていって手を止め
三堂 「・・・・・・宗教画?」
弟子 「「え?」」
 両サイドから覗き込む
由良 「ほんとだ。師匠、宗教画は描かないって言ってたのに」
真珠 「人物画を描くのも初めてじゃない?」
 青木と狩谷も覗き込む
青木 「わあ・・・・・・凄いですねえ。綺麗です。これ、何ていう神様ですか?」
三堂 「マルスだろう。ギリシャ神話の、戦いの神だ」
青木 「ああ、警視にぴったりですね」
三堂 「は?」
青木 「だってこれ、モデルは警視でしょ?」
 真珠・由良之介・狩谷、顔を見合わせ、さっき以上に絵を覗き込む
狩谷 「間違いないな。青木の言うとおりだ」
真珠 「本当ですね。そっくりです」
狩谷 「お前、自分の顔だろう?気付けよ」
三堂 「やかましい。鏡を見る暇があるなら現場を見る」
狩谷 「ああ、そういう奴だよお前は」
由良 「でも師匠、どういう心境の変化があったのかな」
真珠 「自分は宗教画なんて描いて許される人間じゃない、っておっしゃってたのにね。何かあったのかしら」
青木 「心境の変化、ねえ・・・・・・」
三堂 「・・・・・・古森さん。真柴さんの状態をお聞きしても?」
真珠 「状態、ですか?・・・・・・そうですね、何かふっきれたような感じはします」
三堂 「なるほど。――鬼は消えたんですね」
青木 「え?」
三堂 「あの時、カイは『消える』と言っていた。そして自分を刺した。――カイは自分を殺したんだ。創さんを傷
    つけず、自分の人格だけを」
 スケッチブックを閉じ
三堂 「鬼が消えた真柴は、ただの人間だ。あの、悲鳴のような『祈り』を捧げる相手は消えた。そして罪を償おう
    としている今、彼が祈りを捧げる相手は――人であり、神なんだろう。だから宗教画なんだ。これから彼は
    多分、宗教画を描き続けるだろう。カイが手にかけてしまった被害者や、神に祈るために」
 狩谷、三堂の手からスケッチブックを取る
由良 「ああ・・・・・・だったらそれは、これまでのとは違う意味での『祈り』になるんすね」
三堂 「おそらくは」
青木 「あ、そういえば。5枚目の『祈り』はどうなるんです?描きかけでしたけど」
真珠 「ああ、あれは――私たちが仕上げます」
由良 「オレたちは先生の弟子っすからね!」
三堂 「あなたがたが・・・・・・」
真珠 「だって、私たちがやらなかったら誰がやるんです?」
由良 「その通り。――今、6枚目の『祈り』も描こう、って言ってるところなんす。カイさんのために、師匠が描
    きたがってたみたいな救済の絵を描こうって」
真珠 「ええ。先生は私たちに居場所をくれました。だから今度は、私たちの番です」
三堂 「あなたがたは――本当に、いいお弟子さんですね」
真珠 「ありがとうございます」
由良 「褒めてくれるのはありがたいんすけど・・・・・・あの人、大丈夫っすか?」
 狩谷を指差す
 スケッチブックを片手にめちゃくちゃ笑いをこらえている
三堂 「・・・・・・狩谷?」
青木 「どうしたんですか?警部」
狩谷 「くくっ・・・・・・この真柴という画家、人を見る目があるじゃないか。こりゃあ将来大物になるね」
由良 「当然っす!」
青木 「何があるんです?警部」
狩谷 「見てみろ、青木。このページだ」
 青木、スケッチブックを覗き込んで真っ赤になる
青木 「ちょっ・・・・・・先輩、この絵って・・・・・・!」
狩谷 「見てのとおりさ」
由良 「何なに?――わぁお。師匠、いい仕事したっすねえ。ま、頑張ってくださいよ刑事さん」
真珠 「あらあら本当。先生ったら、いつの間にこんなの描いたのかしら」
三堂 「何がだ?」
 覗きこもうとする三堂を4人揃って阻止
 無意味に戦隊っぽいポーズ
4人 「「「「閲覧禁止!」」」」
三堂 「・・・・・・はあ?」
狩谷 「女心は複雑なのさ。お前のような仕事馬鹿には計り知れないほど深いぞ」
三堂 「わけがわからん」
由良 「駄目っすねえ、刑事さん。そんなんじゃゴールまでの道のりは遠いっすよ。もっと女性の心を敏感に察して
    あげないと」
三堂 「何故」
真珠 「そうそう。青木さんも頑張ってくださいね。鈍い人には直接言わないと解ってもらえないものですから」
青木 「ちょっと、4人とも・・・・・・!」
 狩谷、スケッチブックから問題の一枚を切り取る
狩谷 「ほら、大事にしまっときな。未来の大画家から素敵なプレゼントだ」
青木 「わわっ」
真珠 「私たちも帰りましょうか。これ以上刑事さんたちのお邪魔しちゃいけませんし」
由良 「そーだな。――それじゃ、オレたちはこれで」
狩谷 「ああ、私も用事があったんだった。頑張れ青木。じゃあな」
 真珠・由良之介・狩谷退場
 青木と三堂、互いに背を向け合って独白
 スポットライト
青木 「参ったわ・・・・・・あんな風に騒がれたんじゃ、見せるに見せられないじゃないの。――警視と私が恋人同士に
    なったような絵なんて。周りからは私たちがこんな風に見える、っていうんなら嬉しいんだけど。本当にこ
    の絵みたいになれるのは、いつになるやら。
    あ。――よく考えたら、警視と2人っきりなんだわ。このチャンスを利用しない手はない!よし!」
 ライト移動
三堂 「何だあいつらは。一体何がしたいんだ?真柴も一体、どんな絵を描いてよこしたんだか。それに、青木と俺
    を2人っきりにしてどうするつもりだ?狩谷もいい加減にしてほしいものだな。言いたいことは分からんで
    もないが、俺はお前の期待する通りに動くわけにはいかない。
    なぜなら、俺は――・・・・・・」
 普通の照明に戻る
青木 「警視!」
三堂 「何だ?」
青木 「う〜、あ、あの!今度の休日、映画でも見に行きませんか?」
三堂 「今度の休日・・・・・・?」
青木 「はい。ちょうど映画のチケットが二枚ほどあるもので」
三堂 「行ってくればいいだろう」
青木 「そーじゃなくて・・・・・・!私は警視と行きたいんです!」
三堂 「俺と?」
青木 「そうです!」
三堂 「へえ・・・・・・」
 青木の手からチケットを一枚奪う
三堂 「ああ・・・・・・最近話題になっている恋愛モノだな。お前、こういうのが観たいのか?」
青木 「ですから・・・・・・!」
三堂 「いいぞ」
青木 「えっ?」
三堂 「構わん、と言っている。俺も画廊に付き合わせてしまったしな」
青木 「って、ことは・・・・・・!」
 声にならない喜びに打ち震える青木
 呆れ気味にそれを見守る三堂
青木 「約束ですよ警視!絶対ですからね!」
三堂 「はいはい」
青木 「忘れないでくださいよ!」
三堂 「分かってる」
青木 「すっぽかしたりしたら怒りますからね!」
三堂 「分かってるって」
青木 「ついでにこれから遼介さんと呼ばせてもらいます!」
三堂 「ああ。・・・・・・何?」
青木 「映画、忘れないでくださいね、遼介さん!」
 青木退場(嬉しそうに)
三堂 「・・・・・・やられた」
 机の上に座りこむ
 再びスポットライト
三堂 「ったく、馬鹿みたいに浮かれているんじゃない。これじゃあお前に救われてる俺のほうこそ馬鹿みたいじゃ
    ないか。お前は――俺も鬼を飼っていることなど、知りもしないくせに。
    この鬼がいる限り、俺は誰にも心を許すことができない。いつ傷つけてしまうか分からないから、周りから
    一歩引いて接するしかないんだ。
    真柴の横には、あの2人の弟子たちがいた。だが、俺の横にいるのはお前だけ。俺の中の鬼を消すのは、恐
    らくお前の仕事になるんだぞ? 
    全く――・・・・・・なんで俺は、お前に救いを見出してしまったんだ。
    愚かだよ。本当に」
 立ち上がって
三堂 「真柴といい、俺といい。――・・・・・・鬼を飼う者は、鬼を飼わない者に救われるものらしい」
 暗転

 幕

up date 05.06.08



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