「おばあちゃん、あのお話聞かせて!」
「はいはい、いつものお話ね」
襖を一枚隔てた向こうで、妹と祖母がいつものようにやりとりしている。隣の部屋で机と向かい合っていた洋輔も、シャーペンを置いて耳を澄ました。
妹の七海と同じように、洋輔も祖母の話を聞くのが好きだった。けれど妹のように話をせがむには少しばかり成長しすぎていたし、諦めて無視するにはまだ幼すぎた。だからいつも洋輔は、そうして話を聞くことにしているのだった。
目を閉じ、じっと話が始まるのを待つ。
洋輔がそうしているのを知っているかのように、襖越しに聞こえる祖母の声は、この話を語る時だけ、いつもよりほんの少し大きくなる。年齢のわりによく通るその声は、そうしただけで襖などないかのようにはっきり聞こえた。岩間から湧く清水のような声だった。
そしていつものように、祖母は「いつもの話」を語り始めた。昔々、というおきまりの序文。
まぶたの裏にひなびた海辺の風景が浮かぶ。
「昔々あるところに、浦島太郎という漁師がおりました――・・・・・・」


【浦島奇譚】


昔ある所に、浦島太郎という漁師がいた。
浦島は毎日小船で海に出ては釣り糸を垂らし、その日の糧を得て生活していた。

up date 06.



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