「明日はクリスマスだな」
クリスマスイヴの夕食中。
唐突に、一家の大黒柱・豪騎が口を開いた。
「?・・・・・・そーだね」
良く分からないままに、蒼太が相槌を打つ。今日は12月24日だ。明日が25日でクリスマスであるのは、当然である。
「帝。明日の予定は空いているか?」
「はい」
「だったら、空港まで奴を迎えに行ってくれ。慶陽、明日の食事は1人分増やしておいてくれ」
「分かりました」
「了解」
指示を下された二人は「お安い御用」と言わんばかりに頷いた。代わって翡翠が豪騎に訊ねる。
「お客さんが来るの?」
「ああ」
「ふぅん。誰?」
「司だ」
その一言に、一同は固まった。
次いで彼らは美月のほうを振り向く。唯一平然としている彼女は、優雅な笑みを浮かべて嬉しそうに呟いた。
「そう、帰って来るんですか」
やばい。
豪騎と美月以外の者は、総じて同じ思いに駆られた。
司は現在、イギリスに留学中(であるはず)の霧島家五男だ。留学先と時季から考えて、クリスマス休暇を利用して帰ってくるのだろう。
クリスマス休暇というものの存在をすっかり忘れていた彼らは、恐れおののいた。
(魔女の部下が帰ってくる!)
そう。単なる少年に過ぎない(はずの)司がここまで恐れられる理由は、彼が美月に属する人間だからなのだ。
冷静沈着、頭脳明晰。目的のためなら手段を選ばない。そして腹黒であり、美月の部下。
ゆえに、彼のニックネームを鴉という。
鴉と言えば、魔女の部下。魔女と言えば美月。
これほど二人にふさわしいニックネームもないだろう。似合いすぎていて言葉も出ない。
美月は最恐、司は最狂。
二人を上回る者は「最強」たる父・豪騎と母・巴なのだが、あいにくと母は海外出張中の上美月以上に怖かったりもするので、 兄弟たちは父に期待をかけた。
しかし、その望みは実にあっけなく打ちのめされる。
「俺は残業で帰って来られそうにないから、あとは頼んだ」
豪騎の一言に、美月を除く兄弟たちは希望を絶たれたのだった。




「ただいま」
「あれ?つか兄は?」
翌、25日――クリスマス当日。
空港へと司を迎えに行ったはずの帝は、なぜか一人で帰ってきた。司の姿は、そこにはない。
「いなかったのか?」
「ああ。ずっと待っていたんだが」
心配そうに言葉を途切れさせた帝の肩を、深紅は力強く叩いてみせた。
「大丈夫だ、帝。俺たちには心強い味方がいる」
「・・・・・・味方?」
「そう。霧島美月という名の魔女がな!」
「誰が魔女ですか?」
ふいに背後から飛んできた声に、深紅は固まった。やばい、この状況は非常にやばい。
「深紅、私はまだ魔女になった覚えはありませんよ。そう、まだ、ね」
しかし、足音を忍ばせて徐々に迫ってくる圧迫感や声の威圧感は魔女と呼ぶに十分なほどだ。それでも深紅は頷いた。いかに彼とて 命は惜しい。――「まだ」という部分が強調されていたのは大いに気になるところだが。
「帝」
「何だ?」
「さっき、司からメールがありました。帰るのは少々遅くなるそうです」
深紅の咽喉に絡みついた美月の指を見ないようにしつつ、帝は「そうか」と頷いた。
「何時の便に乗ると言っていた?」
「さあ。『日が暮れてからのほうが良いと思って』とか書いてありましたから、夜になるんじゃないですか?」
帝は時計の文字盤を確認した。午後6時。「日が暮れてから」というのは日本時間だろうか、それとも向こうの時間だろうか。
くす、と美月は笑った。
「そういう心配はいらないと思いますよ、帝。夕飯の頃には帰ってくるでしょうから」
「・・・・・・そうか?」
帝が心配しているのは司の無事のみならず司の周囲の無事でもあるのだが、美月はその辺りに気付いているのだろうか。
しかし、こう何度も「大丈夫」と言われていると、本当に大丈夫であるような気がしてきてしまう。
それに「あの」司のことだ。彼自身が傷つけられることはあるまいし、何か行動を起こすにしても手加減くらいするだろう。多分。
どうにかなる、だろう。
帝は軽く息を吐き、部屋に戻ろうと数歩進んだところで振り向いた。大事なことを言い忘れていた。
「美月、そろそろ手を離してやれ。過ぎた緊張感は身体を壊す」
そう言った瞬間に「チッ」と舌打ちの音が聞こえたのは気のせいだろう。
「命拾いしましたね、深紅」
その台詞がどうか冗談であってほしい、と深紅は心の底から願った。
悠然と去りゆく美月の背中が見えなくなるのを待って、深紅は兄に問いかけた。
「帝、クリスマスプレゼントで心身の安全って貰えねーかな・・・・・・?」
対する帝の答えは辛辣そのもの。
「自分が良い子だと胸を張って言えるならお願いしてみろ」
深紅は黙らざるを得なかった。

「それに、美月から身を守る確実な方法などあるものか
その声から実感が滲み出ていたので、深紅は長兄の苦労を垣間見る思いがした。今夜は枕元に胃薬でも置いておいてやろう。
「・・・・・・深紅」
「ん?」
「俺へのクリスマスプレゼントは胃薬だ、などと考えているなら大きなお世話だぞ」
(読心術・・・・・・!?)
おいおいこいつも使えんのかよ、と冷や汗を流しながら深紅は僅かに後ずさりした。
妙なところで血縁を実感してしまった次男だった。




そして、事件は夕食の最中に勃発した。
「わー、ごちそうだぁ!」
「随分と豪勢だな」
「おうよ、俺と蒼太の自信作だ!」
メインディッシュは脂の滴るような七面鳥の丸焼きとラム肉の香草焼き、サイドメニューには湯気を立てるコンソメスープ、山盛りの ポテトサラダとシーフードサラダ。飲み物はワインにシャンパンにジンジャーエール、デザートにはアップルパイとプチケーキ各種。 焼きたてのクロワッサンとバターロールパン。
いつになく胃袋を刺激する豪華な食事に、食欲旺盛な青少年たちは目を奪われた。
「二人でこんだけ作ったのか?」
「ああ。下準備はしてあったからな」
「お二人でレストランでも開けそうな勢いですねえ」
「職に困ったら考えておく」
軽口を交えながらそれぞれが席に着く。それを見計らって、帝が食事開始の合図を下した。
「さあ、日々の糧に感謝の念を表すんだ」
「「「いただきます!」」」
幼少組を主とする威勢の良い挨拶により、聖夜の晩餐が始まった。
「あーあ、ここが洋間だったらもっと雰囲気出たのになあ」
「そーだねえ。畳に座卓で七面鳥じゃあ、せっかくのクリスマス気分が台無しになるよね」
「そんなに雰囲気を出したいなら、照明にろうそくでも使ってみます?」
「頼むからやめてくれ」
(姉ちゃんがろうそくって言うと黒魔術っぽいなあ)
「でも、そうだよなあ。考えてみりゃあ、この家って基本は洋風だもんな。どっかに洋間もあるんじゃねえ?」
「地下にダンスホールがあるって聞いたような気がするぞ」
「え、そんなのいつ使うの?」
「ダンスの時だろ」
「っていうか、今こそそこを使うべきなんじゃあ・・・・・・」
「探検でもするか?非常食とマーキング用のチョークと懐中電灯は必需品だぞ」
「やめておく」

(それは非常に正しい判断だ、蒼太)
「コンパスはいらないの?」
「効かないんですよ、ここの地下。何か磁力を妨害するものがあるらしくて」
「何かって・・・・・・ここは青木ヶ原の真っ只中か?」
「嫌な例えすんなよ深紅!地下に死体でも埋まってるような気がしてくるじゃねぇか!」
「うっわー、慶陽くんたら小心者でしたのねー」
「普段からへたれてるとは思ってましたけどねー」
「・・・・・・そこの赤黒コンビ、一服盛られたいのか?」
「「ごめんなさい」」
「兄ちゃんたちの根性なし(ボソッ)」
「酷っ!」
「違いますよ蒼太。深紅と黒曜は根性なしではなくお調子者なんです
「おい美月、その言い草は何だ!俺たちは尊敬すべきオニーサマだろ!」
「私が尊敬しているのはエリザベス一世と巴さんですが」
(こいつ支配者になる気か!?)
「姉ちゃん、おとーさんは尊敬してないの?」
「ああ、あの方は尊敬するとかしないとか、そういうレベルじゃないでしょう?」
(どういう意味だろう・・・・・・)
(なるほど、確かにそうだよなぁ)

がたんっ

突如響いた異音に、兄弟たちは顔を見合わせた。
「・・・・・・何だ、今の音?」
「風の音・・・・・・っていう感じじゃなかったな」
「きちんと全員揃っているか?」
「揃っていますよ。足りないのは司と鈴鹿と春日と両親だけです」
「じゃあ、あの音は」

がた、がっ、がたんっ!

「・・・・・・押入れ?」
八対の視線が、居間の隅にある押入れに向けられた。明らかに物音はそこから聞こえてくる。
中で動物が暴れているような、誰かが内側から戸を開けようとしているかのような物音。
「ねえ、みか兄。押入れの中ってどっかに繋がってたっけ?」
「知らん。だが、俺の知っている限りではそんなことはなかった」

ばりっ!

唐突にそれまでと違う音を響かせ、押入れの戸から腕が突き出た。
筋肉質な男の腕。一瞬にして固まった兄弟たちを尻目に腕は引っ込み、代わって今度は声が聞こえてきた。
「おい、ここを開けろ。開けて俺を迎え入れろ」
「態度でけぇ強盗だな!」

「蒼太、翡翠、晶。お前たちは下がっていろ」
帝は幼少組を背にして守備体勢を取ったが、黒曜は逆に嬉しそうな声を上げた。
「先輩!すいません、今開けるッス!」
そして黒曜は素早く押入れへ行き、戸を引き開けた。
途端に転がり出てくる土佐犬と大八車!
押入れの上段から溢れるが如くに出てきた大八車は、それを引く土佐犬の力を借りて居間の中ほどの壁際――兄弟たちの目前――まで やってきた。
細身の成人男子程度なら乗せて歩けそうなほど体格の良い土佐犬である。
しかし兄弟たちの目は土佐犬にではなく、大八車に乗っている男に釘付けになっていた。
輝く緑のパーティー帽。きっちりと角刈りにされた白髪頭。鋭い眼光とカイゼル髭。真っ赤な着物の背には「仁義」の二文字、 下半身はふんどし一丁。
どこを取っても異様としか言いようのない男の格好に、さすがの霧島兄弟も言葉を失った。
明らかに怪しい格好をした男が大八車の上で仁王立ちしているのだ。絶句したくもなる。
だが、果敢にもその奇矯な男に話しかける輩が一人。
「久しぶりッスね先輩!プレゼントは配り終えたんですか?」
「あらかたな。後はこのまま北上して、北海道で終いだ」
「北海道!この季節に北海道ッスか・・・・・・」
「ああ。だが、そこまで行ってこそのサンタクロースだろう」
男の台詞を受けて、幼少組が「サンタクロースだって」「サンタクロースだってよ!」と囁き交わした。しかしその目には、 不信と警戒とが入り乱れている。まあ当然だろうが。
「黒曜」
事態を重く見た帝が、キーパーソンたる三男を呼んだ。そしてサンタクロース(仮)を示し、ただ一言問いかける。
「この方は何者だ」
「俺の先輩だよ」
「何に対しての先輩だ」
あっけらかんと答えた黒曜に質問を重ねる帝。サンタクロース(仮)は何も言わずにそれを聞いている。
「バイト先の先輩だよ。毒蝮運輸っつー運送会社」
「何だそのいかにも怪しい事業所名は!」
まったくだ。

「お前、相変わらずロクなとこでバイトしてねぇのな」
「真っ当なところは性に合わねぇんだよ」
それを聞いた帝は卒倒しかけた。真っ当なところは性に合わない。イコール、真っ当でないところが性に合う!
「犯罪者のタマゴがここにもいたぜ」
ぼそ、と呟いた慶陽の視線は美月に向かって注がれている。犯罪者のタマゴどころか起訴されればアウトな人間である。 今のところはギリギリで踏みとどまってくれているようだが、将来は見えているように思う。
「あっ」
ふいに、晶が小さな声を上げた。普段めったに喋らない彼の声に、複数の視線が集まった。
「どうしたの、晶?」
「あれ」
晶の示した指先を追っていくと、そこにはサンタクロース(仮)の乗っている大八車。
前方に乗っているサンタクロース(仮)の後ろには巨大な風呂敷包み、さらにその後ろには・・・・・・
「司!?」
空港を訪れることのなかった魔女の部下が、ぐっすりとお休みになっていた。
「何やってんだこいつ!」
「正座したままで寝てんぞ。器用な奴」
「こいつ、どうしたんスか?先輩」
「む。ここに連れてきてくれと頼まれたのだ。そうか、途中で眠ってしまったのだな」
どう見ても誘拐にしか見えない光景だが、司の性格と言動を考えるならば、サンタクロース(仮)の言っている事が正しいのだろう。
「相変わらず、いーい度胸してるぜ・・・・・・」
呆れたように肩を竦める深紅を尻目に、美月は司の元へと歩み寄っていった。その際にサンタクロース(仮)の横を平然と通っていく 態度は、さすがとしか言いようがない。
「司、起きなさい」
美月にぺしぺしと頬を叩かれ、司は軽く呻いて身じろぎした。年相応の様子。年長組が感動すら覚えたその瞬間、彼は目を覚ました。
漆黒の眼を開いて眼鏡のレンズ越しに世界を捉える。そこに姉の姿を見て、不敵と思慕の入り混じったような笑みを浮かべた。
「おはようございます、姉さん」
それは間違いなく鴉だった。艶やかな闇色をした、侮ることのできない獣。
鴉は魔女の傍らに立つべく立ち上がり、大八車の前方に立つサンタクロース(仮)に軽く礼をした。
「ここまで送ってくださってありがとうございました、サンタさん」
「「・・・・・・はい?」」

兄弟たちは揃って耳を疑った。今、司の台詞の最後に何か、聞き捨てならない単語が聞こえたように思う。
「つ、つか兄・・・・・・サンタさん、って」
「サンタさん」
ぴ、とサンタクロース(仮)を示す司。いかにも、と頷いてみせるサンタクロース(仮)。
「・・・・・・黒曜」
「間違いねーぞ。先輩のフルネーム、黒栖・三太だから」
サンタさん=三太さん。
酷い形で
夢を打ち砕かれた幼少組は、思わず数歩後ずさりした。
「さ、サンタさん・・・・・・この人がサンタさんで、三太さん・・・・・・!」
うわ言のように呟く蒼太。現実を見るまいと視線を逸らす翡翠。怯えたように震える晶。三者三様の態度だが、 それぞれ信じたくないと思っているのはよく分かる。
「サンタか・・・・・・そうか、あれがサンタなのか・・・・・・」
「そうだよな、でなきゃウチに侵入なんかできねぇもんな・・・・・・」
自分がもたらした絶望が着実に広がりつつあるのを知ってか知らずか、三太は風呂敷包みの中から綺麗にラッピングされた箱 を取り出し、幼少組に投げ渡した。
「ほらよ、坊主。受け取れ」
「あー・・・・・・えっと、どうも・・・・・・ありがとう・・・・・・」
相手が相手だけに素直に喜べないらしく、蒼太はかなりお礼を言いにくいようだった。
続いて貰った翡翠と晶も、同じような反応である。ただし、晶だけはぺこりと頭を下げて謝意を表した。
「開けねぇのか」
「へっ!?あ、いえ、せっかくサンタさんに貰ったものでしてから、あとでゆっくり開けようと思いましてございます!」
動揺のあまり敬語がおかしい。
あとでゆっくりどころか絶対に開けたくないと思っているのがバレバレだが、三太はそうかと頷いた。どうやら納得してくれたらしい。
「中身はすげぇもん用意してやったから、楽しみにしてろよ」
その台詞で蒼太たちは逆に絶対に開けないと固く誓ってしまったようだが、三太はそれに気付かない。
「俺はそろそろ行くぜ。黒曜、あとで社長によろしく言っといてくれや」
「はい、先輩!」
「じゃあな。行くぞ権左衛門!」
「わん!」
それまでうずくまっていた土佐犬は元気よく吠えて頭をもたげ、力強く走り出した。押入れの上段めがけて。
ハイジャンプで押入れの中へと消えた三太と権左衛門を無言で見送る霧島兄弟。それぞれの目には「もう二度と来ないでほしい」 という願いがにじみ出ていた。黒曜だけは嬉しそうに手を振って見送っていたが。
「サンタクロースのソリ(大八車)に乗ったとは、また貴重な体験をしましたね、司」
「そうでもありませんよ。僕がサンタクロースと会ったのはこれで3回目ですし」
「「3回め!?」」
「ええ。以前の2回はイギリスで。日本のサンタと会ったのは、これが初めてですが」
「日本の・・・・・ってことは、サンタクロースって各国にいるもんなのか?」
「そーいや三太先輩も「俺は日本支部担当だ」とか言ってたな」
「そういうものらしいですね。イギリスで会ったサンタは2回とも別人でしたが、一人は真っ赤なコートとバンダナに、 人とは思えない赤さの髪と瞳をした男で、もう一人は典型的サンタ服を着た足の速い子供でしたよ。 コートの男はヨーロッパ担当と言っていましたし、子供のほうはできる限り世界担当と言っていましたから」
「何つーか・・・・・・アレだな。両方ともどっかで聞いた風貌だな」
「特に赤コートの男の方な」
覚えのあるらしい深紅と慶陽は無言で頷きあっていたが、司の言葉でそれは確信へと変わった。
「ああ、そういえば赤コートの彼は深紅兄さんと慶陽兄さんによろしく言っておいてくれと言っていました」
間違いない、奴だ。
笑顔で親指を立てている様が目に浮かぶようだ。
「さー明日も早いし、今日はもう寝よう!」
「そうだな!今日は疲れることがたくさんあったしな!」
明らかに現実逃避
だが、誰も何も言わずにそれを見送った。二人の気持ちはよく分かる。
「ほら、お前たちも歯を磨いて寝ろ。無理して起きているんじゃない」
帝はうとうとしている幼少組の背を軽く叩いて促した。眠さのためか、去年や一昨年のように「サンタを捕まえるんだ!」 などとは言い出さない。ショックのためもあるだろうが。
「おやすみなさーい・・・・・・」
ふらふらと自室に去っていく幼少組を見送って、ぽつりと黒曜が呟く。
「・・・・・・赤コートの男って、あれだよな。前に突然侵入してきて、あの二人をどっか異世界に誘拐していった、黒コートに深緑のバンダナした・・・・・・」
「それ以上言うな黒曜」
疲れたように帝が黒曜の肩を叩く。奴は間違いなくあの時の男と同一人物だが、それをわざわざ口に出して確認する気力はない。
「ところで司。あなたはいつまで滞在するのですか?」
「3日まではこちらに。4日から学校が始まりますので」
「おいおい、それで間に合うのかよ?」
「間に合いますよ。霧島屋敷はどこにでも繋がり得ますから」
彼が言うと真実になりそうで怖い。

と、けたたましい騒音と共に幼少組が戻ってきた。その腕には、それぞれが以前から欲しがっていた玩具やら何やらが抱えられている。
「兄ちゃん!これ、箱に入ってドアの前に置いてあった!」
「本物かなあ、ねえ、本物のサンタさんかな!」
興奮した様子でまくし立てる翡翠たちを宥め、帝は「もう遅いから」と言いくるめて再び自室に帰した。その目がちらりと司を捉える。
彼は、わずかに笑っていた。
横に立った美月が、全てを知っているかのような口調で話しかける。
「やりましたね?司」
「何のことですか」
「あなたは相手の年齢に反比例して態度が優しくなるんです。自覚していませんでしたか?」
司は答えない。ただ、他人事のように聞いているだけだ。
「おかしいと思ったんです。イギリスから直行で帰ってきたというわりには荷物の一つもありませんでしたし、向こうの行事には人一倍 敏感なはずのあなたが、弟達に対してプレゼントの一つも用意していないだなんて」
くすくすと、おかしそうに美月は笑う。
「そうでしたか、あなたがここに来るより前に、もうプレゼントは置いてあったんですか」
「やめてくださいよ、姉さん」
司は拗ねたようにそっぽを向いた。その頬は赤みを帯びている。
美月はさらにおかしそうな笑声を上げた。
少し離れたところにいた黒曜は、意外な思いでそれらを見ていた。美月にも司にも、普段の毒気が一切ない。
(何だ。こいつらにも、こういうとこがあんじゃねえか)
魔女と鴉が、ただの姉と弟に戻った。不思議な感じだ。
(・・・・・・俺も寝よう)
二人に気付かれないように、黒曜はこっそりと居間を出た。背後から美月の声が聞こえてくる。
「スープ、温め直してきましょうか。飲み物も冷えているのがありますよ」
(・・・・・・相手の年齢に反比例して態度が優しいのは、お前も同じだっつの)


非日常継続時間、残り9日。












a certain end of year.

up date 2004.12.26.

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